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11月11日
ワークライフバランス。何でもカタカナで言いやがってとは、恋人と別れたばかりの先輩の談である。
でも先輩、研修中はめちゃくちゃカタカナ使ってたよなあ。わからず戸惑っていると、小馬鹿にされた覚えがある。
口を噤めるほどには、自分も大人だ。
「お前の方はどうなわけ?」
「はい?」
「カノジョ」
「いませんよ」
いるっつったら八つ当たりするくせに。ランチ奢らせるくせに。
しかし事実、いない。
「じゃあ、好きな子!」
「い...」
ませんよ。やっぱりランチは割り勘で。
続きが出てこなかったのは、いるからだ。それも、目の前に。
「へええ~」
左肩に手が回る。バレた。
先輩にネタにされることよりも、黙々と蕎麦をすすられる方がツラい。つまり、眼中にないってわけで。
だから先輩、やっぱり割り勘すよ。ね?
「どうかしました?私、何かヘンなことしてましたか?」
右耳から出てきたのは、ワイヤレスのイヤホンだった。
聞こえてなかった、のか?
「いやあ、上村がさ、藤本ちゃんのこと綺麗って言うから」
「ちょっと!!」
何言うんだこの人!高校生か!!
「でも、営業先でもっと綺麗な人いっぱいいるでしょ?」
「藤本さんが好きだから、藤本さんがいちばんすよ?」
沈黙。時が止まったみたいだ。なんだか、店全体の空気が変わった気がする。
「いっった!」
背中を叩かれた痛みで、現状を把握した。
「す、すんません」
「ううん、ありがと」
目を逸らされても、傷つかない。悪いのはこちらなので。
でも、頬に差した赤みは、つまりは。
恋人たちの日
「俺、今からカレー頼むけど、お前の奢りな」
「うぃっす」
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