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11月24日
人、人、人。男女の差こそあれど、高校生なんて皆一緒に見えてしまう。
運転席のカップホルダーに手を伸ばし、ぬるくなったコンビニコーヒーに口をつける。
何年か前には自分もあの集団の中にいたはずだが、デザインの変わった制服には懐かしさを覚えない。
のんびり構えていると、急に風が吹いてきた。助手席のドアが開いたのだ。
「おかえり」
「......」
シートベルトの締まった音を合図に、エンジンをかけ直す。向かうは、病院へ。
「あんな目立つとこに止めないでよ」
「遅れちゃいけないと思ったからね。すぐ見つかったでしょ?」
「そうだけど、周りがうるさかったわ」
気だるそうに、足を組み替える。タイツだから気にしないのだろうか、スカートが短いせいでやや刺激が強い。
「ロリコン」
「手厳しいな」
「そうかしら」
ハンドルを回し、地下の駐車場へ。平日の夕方、車はまばらだ。
「じゃあ、義兄って言っとく?それとも彼氏?」
「姉の友人って言っとく」
「そう」
「私、正直者だから」
「そう」
「あれ、義兄さんの車だわ」
赤のスポーツカーの隣に、白のワゴン車を止める。気持ちは急いているはずなのに、駆け出すことはしなかった。
だって、友人なわけなので。
妹でもそうなのか、慌ただしい病院の中を2人でのんびりと歩いた。
「私、姉の好みは信用していないけど、貴方と義兄の好みは信用しているわ」
「だろうね」
ひとまわり年の開いた姉のことを、彼女は崇敬していた。年相応だった姉に対して、やけに大人びていたのだ。振る舞いも受け答えも、姉を真似て背伸びをしていた。
「私が姉だったら、義兄より貴方を選んでいたと思うもの」
だけど、この子だって子供だった。ピーマンが嫌いだったり、お姫様に憧れたり。うさぎを見倣ってにんじんを食べたのだと、自慢もしていた。
知っていた。初恋の幼馴染を通して、赤ちゃんの頃から見てきたから。
まさかこの子が叔母に、初恋の人が母親になるまで続くとは思わなかったけど。
産声が響く。父親になった男が、人目もはばからずに涙を流していた。
「ねえ、それって、ロリコンでも?」
冬にんじんの日
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