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11月30日
大きな洋風の窓から差し込む光が、舞い散る埃をきらきらと輝かせている。見つけたときは、準備したばかりのスノードームを思い出した。
けれど、階段に座り込んで見下ろすのも、もう飽きた。
階段を降りて、オレンジジュースを注いでもらおうか。
「何言ってるの母さん!」
浮きかけた腰は、母の怒声で重くなってしまった。階下が騒がしくなってから、かなり時間が経っている。
よそ行きのサスペンダーと蝶ネクタイが苦しい。半ズボンから出た足が、寒くなってきた。
子供に関係ない話なら、家でゲームしてる方がよかった。
「私は反対」
実家に入るなり、娘は低い声で唸った。すぐに孫を部屋から閉め出したから、ジュースを入れてあげる暇もなかった。
「あら、どうして?」
「こんなの送りつけて、恥ずかしいと思わないの!?」
ガラスのテーブルに叩きつけられたのは、先日近親者に送ったばかりの報告だった。
「全然。今更式は必要無いわねって話してたから」
ウエディングドレスに憧れる若者ではない。式の華やかさが全てではないことも、とうの昔に心得ている。
「当然じゃない。恥さらしもいいとこよ」
娘はじっと、皺の入った葉書を睨みつけていた。
祝福は無用と腹をくくっていたが、面と向かって反対されると胸が痛い。
「私の戸籍だってバツがついてるし、母さんは父さんと死別だったから、再婚を考えてもバチは当たらないと思うの」
でもねと狙いを定めたのは、私ではなかった。私の後ろでかしこまる、執事の男だった。
「どうしてこの人なの!?どう見たって、遺産目当てじゃない!」
彼は反論どころか、身じろぎひとつしなかった。
「別に、父親扱いしてもらわなくて結構よ」
「私より年下なんて、ありえない」
40年前に産んだ娘とは、10歳離れている。
「それに」
お気に入りのティーカップに口をつける。クッキーは取って置いて、後で孫に分けてあげよう。
「遺産目当てでも構わないわ」
「何言ってるの母さん!」
こんな男に。赤の他人に。まくし立てる娘の声よりも、背後で吐かれた息の音を聴覚が優先して拾っている。
私は、それで十分。
「さあ、シンちゃんを呼んでらっしゃい。暇をしてるだろうから、ジュースくらい入れてあげないと」
「ちょっと母さん、話はまだ」
もう、終わってるわよ。
私は夫に、夕飯の宅配ピザとゲーム用のテレビの用意をお願いした。
どうせあなたは、誰が相手でも納得してくれないでしょう。ひとり娘のことだもの、よく知ってるわよ。
手の甲に恭しく落とされた唇に、目を細めた。
シルバーラブの日
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