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11月9日
プラスチックのカップの底、つやつやと光っている。
もちろん、可愛くは、ない。
「向いてないんですね」
「そもそもミルクティーが苦手だからね」
誰にだって、向き不向きはある。スポーツ、芸術、勉強。全部ができるスーパーマンなんて、少女が憧れる王子さましかいない。残念ながらそんなものは、創作の中にしか存在しない。
「そういう、話ですかね」
「というか俺、紅茶よりコーヒー派だし?」
それにイマドキ、完璧な王子さまもウケないから。どこか人間味のあるヒーローの方が、読者もついてきやすいというね。
「カフェラテがなに言ってるんですか、カフェラテが」
「連呼しないで!」
将来糖尿になりそう、じゃないよ。動くからいいんですう。運動ができる俺に惚れてくれたわけでしょ、ねえ。
「もうカップ外して、ガッといっちゃってください。ガッと」
というかこの飲み物、飲み物のカロリーしてないんでしょ?この後ケーキ食べる方がよっぽど不健康だよ。さすがに今日は我慢する?そうね、それがいい。
「どうでした?」
「うーんとね」
ぷちぷちと口の中ではじける。なるほど、だからあんなに太いストローがついていたのか。まったく役に立たなかったけど。
何みたいかって言われたら、こんにゃく。イモでできてるんだもんね、確か。
「もう買わないかな」
女の子がこぞって並んでるだけで華やいで見えるから、すごくいいものに思えちゃうんだよね。流行ってそんなもの。もちろん追いかけてる子も可愛いけど、様子を見てから挑戦するのもいいと思う。
「それはわかります」
ずっと眉間に皺が寄ってた?やだなあ、言ってよ。跡が残ったらどうしてくれるのさ。
「でも、ヒナちゃんは好きでしょ?」
「うん。美味しかったですよ」
白い歯がこぼれる。女の子って可愛い。
羨ましいくらいに。
「でも、今日は寒すぎたかも...」
「ホットは美味しくなさそうだよね」
「ケ...ミヤちゃんはミルクティーが苦手なだけじゃないですか」
まあねー。右腕を絡めると、同じように腕が回ってくる。
横顔に一瞬、悲劇の色が浮かんだ。軽口がぴたりと止む。
すれ違ったカップルが、物珍しそうに俺達を見た。何者に見えるんだろうね、俺達。
いや、
俺。
好きに呼んでいいよ。ケイジでもいいよ。男の俺を好きなのに女のミヤコと友達でいてくれるヒナには、その権利があると思うから。
取りこぼした何かを、拾うことはしなかった。
タピオカの日
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