彼とねこ。

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鍵は預かっていたので、先に部屋に入ることにした。 外観も内観も古びたアパートで 階段をあがると、カンカンと音が響いた。 手すりは錆びているけど、この感じ私は嫌いじゃない。 今まで、たくさんの人がこの手すりを使ったのかなとか そういうのを考えるのが、私は好きだから。 「お邪魔します」 誰もいないと分かっていながらも 礼儀として挨拶をしてみた。 6畳一間の部屋で、大きな家具は小さいちゃぶ台、冷蔵庫、電子レンジと布団しかない。 物がないからなのか、部屋は片付いていて ゴミもきちんとまとめられている。 「お待たせ、何もなくて驚いたでしょ」 「いえ、ただ男の人の部屋って、勝手なイメージですけど、もっと散らかっていると思ってたので」 「あまりごちゃごちゃしたのが好きじゃなくて」 「男の人の部屋というか……人の家にお邪魔したことがないので、すごく緊張しています」 「いや、でも、友達の家とかいかない?」 「私、鈍くさくて……イライラさせちゃうんです、相手を。だから友達ができなくて」 「ふ~ん。僕は、君のことを鈍くさいなんて思わないな」 「え?」 「それいったら、僕のほうが鈍くさいよ。だって、あんなに一直線に、助けに行っていたし」 「……この子、私みたいだなって思って」 「子ねこが君に?」 「どうすればいいのか分からなくて、ウロウロするしかできなくて…でも自分なりにどうにかしたいのにできない感じが似ていて」 「たしかに、今まではそうだったかもしれない。だけど――」 「だけど?」 「君が今まで生きてきた世界以外にも世界はあるんだよ」 「別の…世界?」 「子ねこにとっては、君が、別の世界に連れ出したんだよ」 彼がそういって、右手では私の頭を、左手では子ねこの頭を撫でてくれて、涙が止まらなくなった。 「ごめんなさいっ……」 「ごめん!僕なんか失礼なことを」 「違います!逆です!嬉しくて…嬉し涙です」
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