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そんな学者であっても、これまで相手にしてきたのは「妖精郷の魔女」に命を延ばしてもらった者のみだ。そして彼らは皆、そろって魔女のことはよく覚えていないとのたまうのだった。
黒いドレスを身にまとい、洗練された華奢な髪留めで金の髪を美しく結い上げた淑女であった、という話は聞いた。
けれど、彼女がどのような声で話し、どのような魔術をかけ、命を延ばすことをどう思っているのか、それらの話は一切聞くことができなかった。
彼女は人嫌いの「妖精郷の魔女」と呼ばれて久しい。
人に会わぬよう、余計な噂が立たぬよう画策しているのかもしれない。
直接会って話をしているはずなのに、彼らの言葉は噂話と大差がなかった。
けれど、この死神ならば、彼女の死を知らせた青年ならば、もっと彼女の存在を確かに伝えてくれるのではないか。
そう期待するなと言う方が、野暮というものだった。
ことのあらましと自身の希望を述べた学者の言葉に、「なるほどねぇ」と死神はどこか不思議そうに首をひねった。何かを思案するように、栗色の瞳を宙へ向けて視線を彷徨わせている。
「彼女の魔術のことを、どこまできみは知ってるんだい?」
「――妖精郷の魔女は、命の天秤を操る。それは人や生物にとどまらず、この世に在るすべてのモノの定命を視るのだ、と」
妖精郷の魔女は、すべての寿命を天秤の形で視ると言われていた。
そして、彼女の魔術は視ることだけに留まらない。死へと傾いた天秤を生へと戻すことも、その反対に生けるものを死へと誘うよう天秤を傾けることもできると言われた。
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