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教室から逃げ出したものの、わたしに授業をさぼる勇気は無い。いっそさぼってしまおう、このまま屋上にいようと頭を過らないわけでもなかったけれど、いざ始業のチャイムが鳴ると、わたしの足は無抵抗に教室へと向かっていた。派手やお洒落に憧れるくせに、真面目過ぎる部分が憎い。
「プリント回ったか―」
英語の先生が教卓に両手を付いて、教室を隅々まで見渡す。白井君から回って来たプリントを後ろに渡して姿勢を戻すと、もう前を向いていると思っていた白井君の顔がそこにあった。
「さっきの、ごめんな。俺が美羽と海斗に頼んだんだ。緋山に声かけてやってって。余計なお世話だったよな、本当ごめん」
顔の前で両手を合わせて拝むようなポーズをする白井君に、慌てて首を横に振った。
「あいつら悪い奴じゃないんだよ、本当に。美羽は見た目は派手だけど、俺の幼馴染でさ。良いやつだってのは保証できるんだ。海斗とは高校から一緒だけど、実は小学校から知り合いなんだよ。ちょっとノリは軽いところもあるけど、真面目で努力家でさ。ふたりとも優しいから、緋山と仲良くできるんじゃないかって思って、俺が勝手に頼んだことなんだよ」
「ううん。ありがとう。ふたりが嫌で逃げたわけじゃないの。本当に。ただ……驚いただけで。わたし、夏川君と同じ中学だったってこと知らなかったから」
ひと息置き、膝に置いた左手を右手で覆うように握って「それに」と続ける。
「友達が出来たら、わたしも嬉しい、から」
それは本当。だって中学の頃は友人なんてひとりもいなかったのだから。
「そっか。うん、それなら良かったけど――」
「おーい白井、前向きなさい」
名指しされた白井君は「すみません」と前を向き直す。間際に微笑んだ白井君の顔が授業中頭から離れなかったのは、もちろん内緒だ。
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