心を開いて。

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「ドアの前に立たれたら邪魔なんだけどー。井戸端会議?おばちゃんじゃん。ださーい」  屋上にやって来た誰かの声を引き金に、わたしは急いでお箸を片付け、お弁当に蓋をして袋に突っ込み、知らない人たちの脇を小走りで掛け抜けた。俯いたままのわたしは、それが誰かまで確認しなかったけれど、腰に当てた手の爪先には春らしく愛らしい桜が舞っていた。  花子のあだ名の女子高生が、三番目のトイレでお弁当を食べている絵は傍から見たらどう映るのだろう。滑稽だろうか。はたまたこれも絵的にはホラーなのだろうか。  冷めて少ししんなりしたちくわの磯部揚げを齧る。青のりの香りが口に広がる。トイレの臭いに包まれているわたしの、細やかな抵抗。一生懸命作ってくれた母に対する申し訳無さに押しつぶされそうになるわたしは、ひとくちひとくち、しっかり噛んで味わった。  普段誰も来ないこのトイレは、今朝、美羽ちゃんがメイクしてくれた場所だ。隣の棟で男子が何やら喚いている。それに続いて先生の声もわあわあと反響している。何を言っていのかわからないが、きっと先生をおちょくりでもしているのだろう。げらげらと軽いノリの高笑いも聞こえて来る。  唐揚げは鰹節の香りがした。今日の卵焼きは出汁の味がする。油揚げの煮物は甘辛くて、冷めた豚肉は少し固くて筋っぽかった。 「花子さん」  ふたくち分だけ残ったご飯を食べながら、ぽつりと呟いて、改めて自分の惨めさに落胆した。今のわたしには花子さんくらい隣にいてくれた方が良かった気もする。  トイレでひとり弁当を食べる姿のどこが青春だ。なんて虚しく、寂しい青春だ。
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