花子の春

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「マック、今日も後頭部が良い感じにエム字だねー」  膝の上に手のひらを乗せてネイルを塗っていた隣の席の女子が甲高い声で笑う。煽られるようにして他の女子や男子がくすくす、げらげらと笑う。「腹減ったー、マック食いてぇ」と囃し立てる男子もいる。 「先生、最近口コミの良い育毛剤買ったんだぞ。増えてないか?高かったんだがなぁ」  この先生は何だかんだとこの状況を楽しんで、おふざけの波に乗ってしまうから事ある毎に脱線する。先生はきっともうこのネタを何年も擦っているのかもしれない。開き直って笑いに変えてしまうあたり、わたしにはとても出来ないなと思う。そんなユーモアもセンスもノリの良さも無い。つまらない人間だ。頑張ったはずのメイク顔も恥ずかしくて堂々としていられない。  先生みたいに、うまくいかない事、自分の欠点を笑えたらどれほど生きやすいだろう。  それにしても、だ。あちこちから漂うシンナーの臭いが鼻をついて堪らない。窓際だと、こちらに向かって空気が抜けていく分、なかなかの拷問だ。  今のわたしの顔、しかめっ面になっていないかな。  いたずらにエム字禿げネタを盛り上げ続けるクラスから顔を背けた。 「はい、静かに。今日は委員会を決めるからなー。立候補はあるかぁ?推薦は駄目だぞ。嫌な役を押し付けようとする奴がいる事は、先生も長年の経験で知ってるんだ。どうしても決まらない分はクジにするから。これが一番平和的だって事も、先生は年の功で知っている」  どうだ、すごいだろうと言わんばかりに得意気に肩眉を上げる。チョークを指に挟んだまま、小指で教卓を叩く仕草をしたマック先生は、すぐさま「お、笹山。立候補か」と嬉しそうに「何がやりたい?」と黒板にチョークを突き立てた。
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