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気がつくと、目の前には例の彼女の顔があった。心配そうに、オレの事を見下ろしている…。
ってか、オレまだ裸!いやん、お婿に行けなくなる!しかも何で、膝枕されてんの?そう思って顔を上げると、覗き込む彼女の顔と勢いよく正面衝突した。うぅ。転んだ際の後頭部は痛むし、今日は厄日かなぁ…。
「いってーな!火花、出たろうが!ちったぁ、大人しく出来ねぇのかよ!あと、銭湯で走るもんじゃねぇ。そこらへんの、ガキでも知ってらぁ」
ずいぶんと高めではあるけど、その声は…。お、男ー!?うん。まぁ、この作品がBL小説である事から察されていた読者様も多かろう。でもその可憐な容姿で野郎とか、反則…。
お名前は、波多野潤くん。高校二年生。部活仲間たちは、薄情にもさっさと帰っていたけど…。一人だけ残っていた先輩から、彼の事を紹介して頂いた。
「え?君が、年上?中学生か、下手したら小学生くらいにしか見えないけど?」
「お前なぁ…。一発、殴られてぇか?」
見事なべらんめえ口調だが、生粋の江戸っ子ではないらしい。中学生の時から、銭湯を営む祖母の家に越して二人暮しをしているのだと。ここらへんの設定は、またおいおいと語られるでしょう。
弁護士志望。毎日電車に揺られ、横浜県は神奈川市の宝門学園高等学校まで通っているのだそうな…。
「はぁぁ?ホモ学?めっちゃ名門やん!偏差値、○0くらいでしょ?頭いいんだ、潤くん…。って、タメ口叩いたらいけないのか」
「いいよ今更、敬語なんざ…。歯が浮いてくらぁ。それに、年下扱いされるのは慣れてるんだ。学校の奴らも、どいつもこいつも子供と接するみたいに。何せオレ、誕生日が三月三十一日だから。大概の奴より、年下なんだよな」
「え、それマジで?オレ、四月一日…。だから、もう16歳。一日しか、誕生日違わないんだ」
「その日付自体も含めて、嘘みてぇな話だな…。まぁ、いいや。それなら、あと三百何十日間は同い年って訳だ。よろしくな、りょーが!…で、合ってるのか?名前」
あ。今、ニッコリと笑った…。顔に似合わずとっても口が悪いけど、笑ったら可愛いなぁ。ギャップ萌えっての?本当に、女の子みたいだ…。ってか、そこらへんの女の子よりもずっと可愛い。何ならもう、男でも全然…。って、これ以上はいけない!オレは、ノーマルだ!
「部活の連中はさっさと帰りやがったけど、お前はもう一回風呂に入って行けよ。せっかくだから。へへっ。今月の変わり湯は、『はたの湯』自慢の桜の湯だぜ」
あぁ。さっき、オレが足で踏んで思いっ切り滑ったやつね。
昨今の銭湯離れで、ここも等しく経営難に喘いでいる。さりとて、スーパー銭湯みたく改装するような金もない。苦肉の策で、毎月何らかの変わり湯を設けては売り文句にしているのだそうな。まぁ、焼け石に水かとは思います。
古くからの常連客が多いのと、オレらみたいな部活帰りの学生のおかげで何とか経営が持ってはいるんだと。これは、明日からも通い詰めてあげないといけないかなぁ…。困った時は、お互い様って言うし。それにまた、潤くんと会えるかも知れないじゃん?
潤くん…。オレの隣で、すました顔して湯船に浸かっている。改めて、黙っていると本当に女の子みたいだ。桜の湯だからか、顔色もうっすらとピンクに染まって…。って、いけない。平常心!
「りょーが?どうしたんだ、ずっと黙って。気分でも、悪いのか…?」
「え!?そ、そんな事ないけど?あ、アレだよ。さっき床で打った、後頭部がちょっと…」
「マジでか。すげぇ音したもんな。どれ、タンコブになってないか…?」
そう言って、オレの後頭部に手を回してきた…。ってか、近い近い近い近い!さっき膝枕してた時にも思ったけど、パーソナルスペースとか備えてらっしゃらないんですか?ヤバい、もう限界…!
「お、オレちょっとのぼせたかなぁー!?そ、そろそろ出て…」
勢いよく、湯船から立ち上がった。同時に、オレ自身のモノも立ち上がった。勢いで、下半身に巻いていたタオルが外れた。潤くんの目の前には、屹立したオレのオレ自身が…。
そうはならんやろ、って?今現在(ry)。
「こ…この、ド変態がぁー!」
そうしてオレは、顎に強烈なアッパーカットを食らいましたとさ。
前言撤回、やっぱり可愛くない!
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