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第五話 天使か悪魔
そうして、翌日の放課後になった。
「シケてんね~~、今日も?」
先に待っていたマユミは、風船ガムなんかふくらませながら、そう言う。
反り返った胸は一段と立派だったし、短すぎるスカートから伸びる足もいつも以上になまめかしい。
俺だけが、どこまでも矮小な気分だ。
マユミは低く舌打ちし、風船ガムを割る。
「いい女が相手してやろうってんだ、イキリ立ったらどうなのさね、フニャチン野郎がさ!」
そう言うや、俺の頭をわしづかみにして引き寄せ、腹に思いっきり膝を打ちこんだ。
俺が悶絶して咳き込んでいると、
「もやっとしたモンもさ、吐き出しちゃいなよ。スカッとするよん?」
憎たらしい声が頭上から降ってきた。
冗談抜きで、痛かったし、息苦しかった。
これまでも、なんでこいつが俺などに構うのかは、不思議でならなかった。けれども、そのワケなど深く考えもしなかった。むしろ、マイペース人間に特有の、人の好い暇つぶしなのだろうと高を括っていた。まったくもって、考えが甘いにも程がある。
どうやら、こいつの思い入れは、とことん黒いものを孕んでいるようなのだ。
「よっっしゃ。んじゃ、行っくよ~ん」
気遣いの言葉のひとつもなく、ぺしゃんこのカバンを肩に担ぎ、マユミは先に行ってしまう。
俺は、膝にまともな力も入らないながら、その後を追わざるを得ない。これも恐らくは荒療治なのだろう。とはいえ、漫画やラノベみたいに優しくされるばかりでは、俺の根性もフニャついたままだったであろう。これはこれで、良かったに違いない。
マユミと共に乗り込んだ電車は、普段の通学で使うのとは、違う路線だった。
電車に揺られて数駅。いつもの高校からもほど近いながら、実際には、果てしないほどに遠くかけ離れていたのかもしれなかった。
向かう先の高校の最寄駅に着くと、情報元になってくれた人が、マナブさんからの連絡を受けて待ってくれていた。髪を明るくした、可憐な感じのかわいらしい女の子である。
「マナブさんに、よろしくね?」
情報をひと通り受け渡した末尾にその名を出すと、彼女の表情がひときわ華やいだように見えた。
マナブさん、モテそうだもんな……。
ほんの束の間であれ、その笑顔が自分に向けられていると思い違いそうな己が、うらめしい。
「……けっ」
なぜだかマユミが、面白くなさそうな様子である。
「ほら、場所わかったんならさっさと行くよ。どんくさいんだからさ~、ったく」
「宍原のぞみさん、陸上部なんだってな」
「みたいだね~。女だって汗に青春かけろ、ってね~。走ってりゃ、辛気臭い感傷なんか、どこ吹く風よ~ってね~」
「グラウンドの場所も教えてもらったし、そっちに行ってみるか?」
運動部なら、まだ練習しているはずの時間だった。
夏も本格的になり、日は長くなっていた。
俺とマユミとは、寡黙がちになりながら、見知らぬ街の見知らぬ道を行く。
グラウンドまでは、河川敷に上がって、川沿いの道を行くことになった。
地元の中高と思しき制服の学生たちが帰っていくのと、何度かすれ違った。俺とマユミとのすれ違いざま、明らかに視線を送ってくるような奴らもいた。
「制服のまま来たのは、失敗だったかしらね~ん」
マユミはぽつりと言う。ほかの生徒たちと逆方向に向かっているというのもある。確かに俺たちは多少なりと目立っていた。
だが、おそらく根本の原因はマユミ自身だろう。別校の制服はむろんだが、すれ違う男子生徒たちの視線が、どういったわけで送られてくるのかはなんとなく想像がつく。
隣りに並んでいることにすっかり慣れてしまったが、こいつは本来それだけのプロポーションを備えているのだ。意識してしまうと、俺は、ふたりきりでいる状況が、ますます不思議に思えてきてしまう。
三高のことを口にしたとき、マナブさんはどこか、険しい表情だった。
やにわに不機嫌となったこいつの態度といい、これから会おうとする少女のこと以上に、俺は胸の中のわだかまりがじわじわと募ってしまいそうであった。
グラウンドが見えてくると、そこは思いのほか広さがある。
いくつかの部活が活動しているらしき、賑やかな声が聞こえてきた。
「陸上部は来てるのかな?」
俺は広いグラウンドを見回した。
「どうだろうね? さっすがにここからじゃわかんないな~」
マユミはずけずけとグラウンドの中まで踏み入ろうとする。さすがにまずいだろうと俺が止めようとした矢先、
「こらああ~~~~~!! そこの人たち!! 関係者じゃありませんよね~~~~~!?!?」
快活な声が、夕焼け空にこだました。
「ああ~~ん?」
柄の悪い態度でマユミは振り返る。売られたケンカに怯まないのは、すっかり模範的なワルである。
俺たちのすぐ後ろ、威圧的に腰に手を当て、じっと逃がすまいと睨みつける小柄な人影があった。
シャツにスパッツ、ランニングシューズという出で立ち。ショートカットだが、体のラインから女なのはわかる。
おそらく陸上部だろうと、推測できる風貌であった。
俺は、マナブさんに見せてもらったバストアップ写真を思い浮かべ、目の前の少女と重ね合わせる。
「練習中は、勝手に入ったら危ないですよね? 何か御用ですか? だったらまず、顧問の先生を通していただかないと――」
その少女は、一歩も引かなかった。学級委員長気質の子だな、と俺は思う。
そうか、こんな感じの性格なんだな……と。
俺の中ではもう、確信が固まりつつあった。おそらく、隣りのマユミもそうだろう。
だから、俺はただ、その子のほうへ一歩を踏み出す。
妙な決意を感じてか、相手の子は一歩たじろぐ。
「宍原のぞみさん……ですよね?」
俺はそうたずねる。
「…………え?」
名を呼ばれた少女は、余計に混乱した様子だった。
けれども、それは人違いだから、というわけではなさそうだ。
「あなたたちは……?」
答えを求めるようにきょろきょろと俺たちを見比べ、しかし、
「その制服……もしかして、一高……?」
不意にそのことに気づくと、連鎖して次々と何かに思い当たるような表情になった。
「一高の人が、なんの用事ですか……?」
警戒しながらたずねつつ、ほんのわずかであれ、彼女の中にある種の“予感”が生まれているのは確実だった。
「ちょっと、聞きたいことがあって……」
俺は、臆しないようにと、己の心に言い聞かせながらそう切り出す。
制服で来たのは、どうやら間違いではなかったようだ。
踏み出した一歩が、無事にその次へと道を切り開いてくれる予感を、俺は確かに抱いていた。
※ ※ ※ ※
それから部活終わりに時間を作ってもらい、俺とマユミはグラウンドの側で彼女を待った。
ほどなくして、セーラー服に着替えた彼女が姿を現す。
「ほんっと、びっくりしましたよおおお~~~~」
立ち話もあれだからと、河川敷に移動し、芝生の斜面に転がるように腰を下ろすと、彼女はため息のようにそう言った。
中途半端な夕陽が目の前で燃え上がろうとしており、彼女の声はそこへ吸い込まれるようだった。
「なんの殴り込みかと思いまして。うちの高校、昔ケンカが多かったみたいですから。誰か声かけなきゃ~~~って思いながら、内心びくびくでしたよ、もう~~~~」
よくしゃべる子だった。しかし、それはこちらにとってありがたかった。
「殴り込みに見えたとよ?」
ひとまず俺は、マユミに胡乱な視線を送っておく。
「わろうござんしたね、そんな柄してて」
マユミも胡乱な視線を送り返してくる。
「で、なんなんですか?」
漫才みたいなやり取りを交わす俺たちのほうへ、のぞみは丸い瞳を振り向けて、そうたずねる。
隣りに来いと言われているように思い、俺は彼女の傍らに腰を下ろす。
「その……早乙女美優って、覚えてる……?」
俺は、おそるおそるたずねる。まずは美優の名前を出して、彼女がどんな反応をするのか、確かめたかった。
のぞみは目を丸くしたまま、俺を見返していた。何を思っているのか、その表情だけではわからなかった。
「……へえ、美優ちゃんのお友だちか」
表情は変わらず、しかし正面に向き直ると、その横顔は何か物思う様子だった。
「そっか……美優ちゃん……」
深い含みのある独白だった。
「てか、美優ちゃんのお友だちが、なんでここに?」
確かに、色々と状況は錯綜しすぎているかもしれない。
「運命の導きって奴じゃん?」
マユミが不意にそう言う。こいつは少し下がったところに、立ったままだった。
遠慮しているというわけではない。本能的な配慮で、距離を取ったまま保っているのだろう。
「運命ですか?」
のぞみは退きも驚きもせず、ただ振り返って、たずね返す。おそらく、このまっすぐさの裏にあるものをマユミは警戒しているのだ。
「あんたが運命だと思うなら、そうじゃないのさね?」
「とすると、あなたたちは、あの子がつかわした天使か何か?」
「天使ねえ。悪魔のほうかも、しれないけどねん」
「そっか、ふふ……。だとしたら、やっぱり美優ちゃんは、私を恨んでるってことだね」
のぞみは、不意にぽつりとそう言った。
「それは、何に対して?」
俺はすかさずたずねる。
「さあ、なんだろうなあ……」
のぞみは言いよどんだ。けれどもそれは、ごまかしているのではなく、心当たりをひとつひとつ探って、そのひとつひとつに想いを馳せてしまっている感じ。
よくしゃべるかと思えば、よく物思う子である。
「青天の霹靂にしちゃ、ずいぶん心当たりがありそうよね~ん?」
不敵にマユミが言うそんな折に、肝心の空は青天どころか暮れなずまんばかりである。
「そりゃあ……さ。だって、不意打ちだったし。これでもなんとか平常心のつもりだったのに……ああ、ダメだ……もうさ~~……」
つい先刻までの表情の読めなさから一転、急に取り乱した様子で頭を抱えてしまう。
どうやら、こちらのほうが彼女の素性のようである。
それを見届けると、マユミはやれやれと笑みを浮かべて、
「文学少年、今日はここまでにしとこうか? あたしらも急すぎたからね。まさかこんなにすぐ会えるなんて思わなかったしさ。また来るよ」
そう言うが早いか、俺の返事も聞かずにもう身を転じようとしている。
「待って!」
のぞみは立ち上がり、呼び止める。
「あなたたちに話したのは、美優ちゃん自身?」
その質問には、切実さが感じ取られた。
マユミは真意を探ろうとするように、見つめ返していた。
「いんや、美優とは別の、ちょっとした筋からさね」
はっきりとは、答えない。
「そう……。ありがとう。美優ちゃんは、もう先まで行っちゃったのかな、と思ったから」
それは、どういう意味か。のぞみは、その先を語ることはなく、
「あのさ、スポーツとかしないの?」
急に声を弾ませて、そうたずねる。
「明日、部活休みなんだ。体動かしながらだったら、もっとうまく話せるかな、と思って……」
それはまた奇妙な提案であったが、ゆえに、この少女の人となりをよく感じられるように思った。
「アンタに任せるよん。アタシらは明日、またここに来るから」
「わかった。約束だよ」
先ほどまでの打ちひしがれた感じもどこへやら、のぞみはもう快活さを取り戻していた。
俺は、不思議な懐かしさに包まれていた。よく知った何かに、触れたような感覚。
美優との古い馴染みであるがゆえ、彼女の心性と似たものを感じたのだろうか。しかし、それはもっと奥深い何かだった。もっと昔からの、もっと昔から馴染んでいた、何かの。
それがなんなのかもわからないまま、ただ出会ったばかりの少女の懐かしさに、俺はしみじみと感じ入っていた。
※ ※ ※ ※
翌日、俺とマユミが到着すると、のぞみはすでに昨日と同じ場所で待っていて、河川敷に腰を下ろし、文庫本を読んでいた。こちらに気づくと立ち上がり、手を振る。
その傍らには、バドミントンのラケットが三つ、用意されている。
「これだったら、ちょうどいいかなと思って」
ラケットの束を両手で抱え、のぞみはにかっと白い歯を見せて笑う。
そんなこんなで、俺たちはシャトルをラリーしながら、言葉を交わすこととなった。
「そっかあ。まさか一高のトップの身内と、こんなとこで会えるなんてね~」
空は秋晴れに筋雲を浮かばせていて、のぞみの高い声は晴れた空によく通った。
「噂にだけは聞いてたよ。うちのワルたちが急におとなしくなって、それがどうも、一高のトップのおかげだってことはさ」
俺も詳しいことは知らない。しかし、こういうのはたいてい勝ち負けで決まったり終わったりするものではなく、やられたらやり返すを延々と繰り返すものだ。
しかし、マナブさんは人格もデキた人だ。そして、のぞみのいる三高でも、同じように人格のある人が上に立っていたものらしい。そのふたりの活躍で、両者とも納得のいく折り合いが付いたのだとか。
「モノ好きなやつだからね~。一緒にいるとさ、たまに疲れるのよね~ん」
実の妹であるはずのマユミは、まるで赤の他人のような言いぐさだ。
「きょうだいってうらやましいな~。私もお兄ちゃん、欲しかった」
そう言うと、のぞみは不意にシャトルを強く打ち返してくる。
「君はどうなの、文学少年くん?」
その呼び方も、なんとなく板に付いてしまっていた。
「マナブさんみたいな、アニキだったらな」
「ふ~ん」
話題を振っておきながら、のぞみはそっけない。
自分の中で消化してしまえたのか、それとも、返答を得たがゆえになおのこと思考がこんがらがったのか。
「美優ちゃんも、変わらず文学してるの?」
そうしてのぞみは、美優の話題に切り替えるのだ。
「そうだな。いっつも分厚い本とにらめっこしてる」
孤高の人であり、そして、孤独な人だ。
「そっか。あの頃と、同じ……なのかな」
ひとりごとみたいに、のぞみは言った。シャトルを打つ音が、静かに響いていた。
「君の知ってる早乙女は、どんな子だった?」
俺は、あえてそうたずねる。同じと思っていても、実はぜんぜん違うものを、念頭に浮かべているなんてことは、よくある話なのだ。
「どんなだったかな……」と、のぞみの言葉は、急に歯切れが悪い。
「そんな感じだったかもしれないって、思うけど、あの子のこと、本当は、何もわかってなかったのかもしれない」
「思い出すのが、嫌なだけなのとは、違くて?」
俺は、シャトルを強く打ち返す。
のぞみのラケットは、空を切った。
「はは……言われちゃったなあ……」
シャトルを追おうともせず、そう言う。
マユミが肩にラケットをぽんぽん打ち付けながら、シャトルを拾い上げる。
「立ち止まったまま、かあ……」
のぞみは、吹き抜けてしまったような空を仰ぎ、つぶやいた。
「中学で、陸上部に入ったんだよ。走ってたら変われる気がして。何も考える暇がないくらい走って、そうしたら、わだかまってたつまんないこと、全部吹っ切れると思った。そうやって身軽になれば、何もかも上手くいくんじゃないかって。でも、私はそのせいで、前に進んだつもりになってしまっていたのかもしれない」
本当は、立ち止まったままなのかもしれない。
そう締めくくると、のぞみはバタンと仰向けに倒れ込んでしまった。
「何してんのさ、青春少女どの?」
マユミが冗談ぽく言いながら、その傍らに立つ。
「空が、青いなあ~~~……と思ってさ」
「だよねえ。ここは屋上でもないのに、やけに空が近いのよねえ」
そう言うと、自身ものぞみの隣りに寝転んだ。
俺は、あえてすぐそばの斜面に腰を下ろして、ふたりが見ているのと同じ空を見上げた。
「マユミちゃんさ~」とのぞみが言う。
「ん~~~?」
「マユミちゃん、屋上でよく、授業サボってそう」
「漫画のヒロインじゃあるまいし? 昼休み専門だよん。サボって昼寝したところで、後から補習出るほうがずっと面倒だしね〜ん」
「よく言うよお。屋上なんて、普通は立ち入り禁止なのにさあ」
「そういうのは、知らないかな~?」
「ズルいなあ……自分の意思があって。私は、ぶれてばっか。やるべきことは決めたはずなのに、そこから逃げて、違うとこ、走ってばっか。なんだかなああ~~~もうさあああ!!!」
そう言うと、駄々っ子みたいに両手足をばたばたさせる。
「甘えちゃってんのよ、あんたみたいな奴はさ。真面目に悩んでりゃ、善良で全うな人間ですってね~ん? 思ってんでしょ、そんなこと? 人のいいとこばっか見ちゃってさ~、自立してるだの、自分があっていいだの」
「はじめましてなのに……そこまで言う?」
「自己嫌悪なんてしてるから、人に言われていじけんのさね。いつまでも自分かわいがってないで、早いとこ自由になんなさいな、ってね~?」
「でもお、どうすればいいんだよおおおお~~~!!!」
不思議な光景だった。
もどかしくって暴れまくるのぞみと、猫みたいにそれをいじくり回すマユミと。
俺は、のぞみに感じていた懐かしさの正体を、理解するような心地がした。
きっと、それは俺自身だったのだ。
俺も、ずっとのぞみのように、浅はかな薄い靄の中で意気地なく足踏みを続けていたのだ。
「んじゃあさ、アンタもアタシのおもちゃになってみる?」
「おもちゃ……?」
「こっちの坊やと同じようにねん?」
そう言ってこちらに目線を寄越すのは、情けない内心を見透かされるように思った。
「なんだか、悪魔との契約を持ちかけられてるみたいだよ」
そう言うのぞみの真上には、しかし、淀みのない青空が広がっているのだ。
「悪魔が救いの手になるときもあるのさね。天使を待ったところで、空から降りてこないときにはね」
「……ちょっと考えたい。どうしたいか、どうしてほしいか。いいかな?」
「気の済むまで悩むといいよ。爆発しそうだったら、受け止めてあげるからねん」
「……たすかる」
そうやって女ふたり、しばらく身を寄せ合うように、空を仰いでいた。
俺もまた、同じ空を見上げた。大きな前進など得られていないようで、不思議と多くを学んだように思った。マユミとのぞみの掛け合いを眺めて、きっと俺もこんな風に相手をされているのだろうと、己を第三者の視点で見せつけられたようである。
しかし、そこには他の意味合いもあった。マユミの世話焼きなことには、これまで特に意識するところはなかった。けれども、いささかの違和感が生まれたのは否めない。彼女自身、何かから逃れようとしているような、それ以上に、何か別の叶わないものを、他で代用しようとしているような、そんな切なさと切実さを俺は感じたのだ。
思えばこのとき、すでに俺は開けてはならないものを開けてしまっていたのだ。けれども、まさかそんなこと、その当時は予感ひとつ抱くことさえできなかった。
ただそのときに、不意な視線を俺は背後から感じた。しかし、振り返ってみると、そこには誰の影も、認めることはできないのであった。
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