あの夏・短編集「思考物体の相関力学について」

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そろそろ息がつづかなくなる。 このまま我慢すれば死ぬかもしれないと思うと、身体の内側の奥がぞわぞわした。 そんな事をわざわざ考える私は、やっぱり変態な陰キャなのかもしれないと思う。 でも私は、自分の世界を求めたいだけだ。 SNSとか流行とか、街とかわかりやすい異性とかの先に、自分の世界はきっとないってなんとなく解る。 だから私は好き好んで、わざわざ夏休みに田舎にやってきた。 VIOを宇宙人みたいにつるつるにしたSNS女子も、その女子たちに群がる様々なカーストの男たちもいない田舎の村営プールなら、全力でジャンプしても誰にもぶつからないし誰にも変な目では見られない。 口の端と、鼻の穴から空気の泡がボコっともれる。限界が来る。 飛び上がるように水中から顔をだすと、プールの匂いが鼻から頭につき抜けた。 懐かしくて胸をつかむような感覚がわっと溢れて、それをいっぱい味わいたくて目を閉じる。 その匂いの本質が「トリクロラミンだ説」なんてどうでもいい。 十六歳の私の夏がはじまった。
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