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十年ぶりに登る坂道は、こんなにも静かだったのかと思うぐらいに人気がなかった。
前方から差す朱色の光が眩しく、僕は目を細めながら、ひたすた足を進めていく。左右には蒼葉を茂らせた木々が並び、立ちこめる土の匂いはどこか懐かしい。都会に比べたら虫の声もよく耳に届く。
僕が向かう先はかつて、親友とその家族が暮らしていた一軒屋だった。
中学生の時の親友で、彼の家にもよく遊びに行っていた思い出もある。
押し寄せる寂寥感と緊張に、掌は汗ばんでいた。それをズボンで拭う頃には、やっと坂の頂上に辿り着く。
家々が立ち並ぶ、以前変わらない景色が見え、少しだけ懐かしさが緊張を上回った。
まだ、この家あるんだとか、あそこで飼われていた犬はさすがにいないなとか、心の中で感想を述べつつ、僕はその先を目指した。
角を曲がると、石垣に囲まれた場所が見えてくる。僕が来たことを拒絶するかのように、荒れた木々が風に揺れていた。加えて木々に隠れているせいか、肝心の建物が見えない。
表側に回るとやっと、古びた一軒屋が姿を現す。錆びた門が薄らと開かれていて、誰かいるかもしれないと少しだけ不安が過る。それでも僕はその錆びた門を潜って、中に足を踏み入れていた。
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