廃墟

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 そこでふと、奥から中年の男が現れ、僕と目が合ってしまう。 「……困るんだよね。君も肝試し?」  驚く僕に近づきながら、男が不機嫌そうに言った。 「違います。友達が昔、ここに住んでいたので」 「ああ、そうなの」と、険しかった男の表情が少しだけ緩む。 「あの子のお友達か。世話になったね」  親友の近親者のような物言いに、僕は「……もしかして、お父さんですか?」と咄嗟に口にした。それから男の顔をよくよく見て違うと気付き、否定しかけたとき――男が肯定を示すように頷いた。 「ここが廃墟になってから、悪戯で入る人が増えてるみたいでね。だから俺がこうして、時々見回りに来てるんだ。危ないから、あまり近づかないようにね」  そう言って、男が足早に僕の横を通り過ぎていく。  男の後ろ姿を見送ると、僕の足が思い出したように震え出す。吐きそうな程に心臓がバクバクと打ち、動揺から頭が真っ白に染まる。  何故か男は嘘を吐いていた。  あの男は親友の父親ではない。僕は何度もこの場所に来ては、彼のご両親と夕飯を共にしたことがあるから分かる。
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