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親友が、物盗りに殺されて十年。未だに犯人は捕まっていない。両親はショックから家を出たと聞いていたが、明らかに今の男とは相貌が違う。年齢的には近いかもしれないが、寡黙であんな話しかけてくるような性格じゃなかったはずだ。それにあんな事件があったら、なおさらだろう。
なにより、僕を誰だか分からなかった。
いくら年月が経っているとはいえ、何度も通っていたのだから、気付いてもおかしくないはずだ。憔悴しているならまだしも、男は至って普通だったのだから。
僕は男の忠告を無視して、庭に足を踏み入れる。
廃墟と化し、割れた硝子の向こう側にはまだ、生活の後が残されていた。荒らされてはいるものの、かつては四人で食事していた椅子やテーブルが残されている。
何か取られていても、これでは分からない。かつての親友の家が、見るも無惨な姿になっているのは胸が痛かった。
今日はあの事件から十年。親友の命日でもある。
よく犯人は現場に戻るというけれど、もしかしたら――
僕はそう思い至り、男が立ち去った方に視線を向ける。
だけど、当然というべきなのか、男の姿はその影すら残ってはいなかった。
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