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「まぁ、いいや。どうせだしオムレツでも作るか」
こう見えて朱夏は家庭的である。物心ついた時には母子家庭だったこともあり、いつしか母親を助けたいと思うようになった。そう言うこともあり、料理はお手の物だ。
てきぱきと朝食を作っていれば、巽が浴室から出てくる。彼は朱夏が料理を作っているのを見て、「……上手ですね」と声をかけてくる。
「……まぁ、私の家母子家庭だから、お母さんの負担になりたくなくて」
「そうなん、ですか」
「うん。……私が生まれてすぐに、お父さん病気で亡くなったんだって」
何処となく昔話をするように、朱夏はそう言う。母曰く、父は朱夏が生まれて一ヶ月後に病で亡くなったらしい。元々朱夏が生まれる前に発覚しており、余命宣告も受けていたそうだ。
「……本当は私が生まれるまで生きられないって言われていたらしいけれど、私のこと抱っこしてから亡くなったって。お母さん、それが嬉しかったって」
そんなことを言いながら朱夏が料理を盛り付けてれば巽は何を思ったのだろうか。「朱夏さん」と名前を呼んでくれる。
「そ、その……俺は、あんまり気の利いたこと言えないですけれど……」
「うん」
「俺は、朱夏さんの側に居たいって、思っています」
しどろもどろになりながら、巽はそう言う。そんな彼がどうしようもないほど愛おしくて、朱夏はオムレツと焼いたベーコンを盛り付けた後、フライパンを置いて巽に抱き着く。
「……私のこと、捨てないでね?」
上目遣いになりながらそう言えば、巽は「……捨てるわけ、ないです」とまっすぐに朱夏のことを見つめて言ってくれた。
「俺、朱夏さんの理想で居続けられるように、頑張りますから」
朱夏の目をまっすぐに見つめてそう言う巽に、何とも言えない愛おしさがこみあげてくる。そのため、朱夏は「……いっそ、結婚する?」と問いかけてみた。
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