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 (つじ) 朱夏(あやか)。その名前は、この私立大学に通っていれば誰もが知っている名前である。  何故ならば、彼女は――大層な美女なのだ。  つややかな肩の上までの黒髪と、ぱっちりとした黒い目。すらりとした体躯なのに、胸は少し大きめ。背丈は平均よりも少し上だろうか。朱夏が歩けば、周囲の人間は皆道を開ける。その美しき彼女を一目見ようと、男子学生は列をなす。  日々告白されることは当たり前であるものの、その容姿を鼻にかけない性格から妬まれることは少ない。というよりも、彼女は男性を側に寄せ付けないのだ。どんなに人気のある男性が言い寄ったところで、彼女は一言「ごめんなさい」と言うだけ。  その所為なのだろうか。大学に入学して三年、朱夏を言い表す言葉が出来てしまった。  それは――『難攻不落』。  どんなに容姿の整った男性でも落とせないことから、つけられた呼び名。  噂では過去に男性にこっぴどくフラれたとか、恋愛にトラウマがあるとか。男性嫌いだとか様々なうわさが飛び交う。けれど、朱夏はその一つ一つを否定することもなく、肯定することもなかった。  そもそも、朱夏にとってその噂はどうでもいいことなのだ。だって、どれだけ容姿が優れていても――好みの男性にモテなければ、この容姿はごみ以下なのだから。  ◇◆◇
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