なあラムダ、次があるならまた遊ぼう

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なあラムダ、次があるならまた遊ぼう

 空は灰色。雲はとうに消し飛び、太陽がわりの燃える火球と、神々の怒りの雷が無数に空に走っている。セスのような一介の天使など、空を飛んだ瞬間流れ弾に焼かれて消えることだろう。 「見ろよラムダ。絶景だな!」  今や持ち主さえ分からぬ家の屋根に寝転がりながら、セスははしゃぎ声を上げた。セスが来る前からあぐらをかいてくつろいでいた友人は、苦笑いでセスに答える。 「のんきなもんだ。今日で世界は終わるってのに」 「語弊があるぞ。父上がいる限り世界は終わらない」  性に奔放な悪魔とは違って天使は生殖活動を行わないので、もちろんここで言うところの父は、すなわち神こと世界の創造主である。 「だからこれは、死ぬって確定した大災害っていう方が正確だと俺は思う」 「変わらねえだろ。人間界はほとんど更地になってるし、どうせ俺らは消えるんだから」 「ちがいない!」  命の気配が消えかけた大地に、けらけらと笑うセスの声がむなしく響く。  神々と魔王たちの戦いが巻き起こした超常現象に人間たちが慌てふためいていたのも過去のこと。死者の魂を回収してまわる下っ端天使たちの仕事は、死者が多すぎてとっくに手が回らなくなっている。あたりにはふよふよと儚い色の魂が漂っていた。 「知ってるかラムダ。俺の職場はブラックなんだって。いつだったか天国に連れてった魂がそう言ってかわいそがってくれたんだ」 「ブラックねえ。クソ真面目に働く方もどうかと思うがね。勤勉、節制、正義に……あとはなんだっけ? 縛りが多すぎて天使なんて俺には無理だわ」 「そういう風に生まれついて、周りもみんなそうやって生きていたんだ。つらいって思ったことはなかったよ」  ラムダに会うまでは。  さすがに重く聞こえるかと思って、セスはその言葉を飲み込んだ。黒目黒髪、黒い翼に黒い服。悪魔という種族ゆえか、それとも本人の気質か知らないが、ラムダは何もしていなくても人を馬鹿にしているように見える。損な顔の友人を見上げながら、セスは満足げに微笑んだ。
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