なあラムダ、次があるならまた遊ぼう

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 悪魔は汚い。関われば堕天させられる。口を聞くことさえ穢らわしい。頭がおかしくなってしまったのか。セスがラムダに近づくたび、周りのものはしきりにセスをそう責め立てた。こうしてのんびりとふたりで話すことさえ、これまでだったら難しかった。  天使として人間の模範となるべきふるまいをすべきだとか、死の神のもとで働く責務だとか、礼儀に常識、禁忌だとか、自分が今までどれほどのものに縛られてきたのか、今なら少し分かる。それを嫌だと思うわけではなかったけれど、すべてから解放されてみれば、ほんの少しの罪悪感と引き換えに、少しだけ息がしやすくなった。  ぱたぱたと顔の上で揺れる黒い翼に、セスは反射的に手を伸ばす。張りがあってつるつるとしたラムダの翼は、セスの翼とはまったく違う。セスのくせっけの白髪と違ってセスの黒髪はまっすぐだけれど、翼も同じくらい正反対の感触がした。  くくくと機嫌よく笑っていると、これまた悪魔にしかないしっぽで額をぺしりとはたかれた。 「遊ぶな。蹴り落とすぞ」 「やめて。今俺、最高にくつろいでるんだから」  脱げかけた靴を、寝そべったまま脱ぎ捨てる。思いのほか遠くまで飛んでいくそれが、楽しくてたまらない。 「あっははは! 屋根の上って結構いいな。実は一回やってみたかったんだ」 「昼間っから酔っ払ってるのか? 天使さまともあろうものがなんてザマだよ」 「素面だよ! まあそう言うなって。ラムダがいたらいいなって期待してはいたけど、まさか本当に会えるとは思ってなかったからさ。嬉しいんだよ、俺は」  ふたりが座っているのは、はじめてふたりが出会った場所だった。かつて名高い学者の魂をセスが迎えに来た瞬間、学者の弟子が何を思ったか悪魔を呼び出す術を暴走させた。前も横も見えない状況で、無限湧きする悪魔を送り返すために協力した相手が、たまたまラムダだったというわけだ。  それ以来ふたりは種族を越えた友だちになった。
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