今日という日を、忘れない

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「うわ〜、遅れた!」  駅の改札を出て、駆け足で階段を降りる。  夜7時、駅前は人でいっぱいだ。 「どこにいるかな〜」  待ち合わせ場所のオブジェ前で、私は視線を彷徨わせる。 「音羽(おとは)」  探していた方角と反対から声をかけられた。  振り返ると手をあげて、優しく微笑んでいる。  私はその笑顔に安心して駆け寄った。 「ごめんね、パパ。バイトあがるの遅くなって」 「いいさ、それほど遅れていないよ」  そういえば、パパと2人で出かけるなんてどれくらいぶりだろう?  子供の頃は、よく手を繋いで2人で出かけた。  小さな私の手をしっかりと守ってくれる、大きな手。  優しく温かく、力強い手。  成長するにつれ私はその手を離し、繋ぐ手は友達になり、やがて彼になった。 「じゃあ、行こうか」 「うん」  並んで歩く。もうあの頃と違って、手は繋がない。  それでも、あの時と優しさは変わらない。
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