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「どうぞ。おかけください」
私は営業用の笑顔で、男性に促した。
彼は長身、痩せ気味、やや猫背の体を折り曲げるように、頭を下げた。
それから、オドオドした様子で、周囲を気にしながら、パイプ椅子に座った。
「占いは初めてですか?」
私は彼の緊張感をほぐすために、聞いた。
「はい・・」
まるで、会社の面接のように、姿勢を正して座っている。
私は、素早く彼を観察した。
客によっては、めんどうくさい輩(やから)もいるのだ。
酔っ払った客は、お断りしている。
それ以外にも、自分の思うような答えがないと、意地でも食い下がる、
こちらの言葉尻をとらえて、けんか腰になる、
挙句の果てに鑑定料をねぎる客もいる。
世の中は妖怪のように、わけのわからない、道理の通らない客も多いのだ。
今日の最後の客で、嫌な思いはしたくない。
私の本音。
この男性はというと・・・・
濃紺のスーツと、地味な臙脂のストライプのネクタイ、スーツは少しくたびれている。
椅子の脇に置かれた大き目のビジネスバックは、パソコンが入っているのだろう。
明らかに、仕事帰りに見えた。
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