一日目の手の話

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一日目の手の話

 手の話ですか。  していらっしゃったでしょう、手の話。  何と言ったら良いんでしょうかね。そうですね、ええ、もしかしたら私、知っているんじゃないかと思いましてね。  はい。そう、手をです。  見つけたと言いますか、今申しました通りね、知っているんですよ。  どこで、と聞かれましてもね、そうですねえ、とても、申し上げにくいのですけどね、  ここ、なんですよ。  ああ、いえ、今はね、どうやら、いないようです。  嘘、と言われましてもね、ううん、残念ながら証拠などはないのですが、それでも見たんですよ、私は。  初めてその手に気がついたのは、先週の頭でしてね。  そんなはずがありませんか。  でもね、それが、あるんですよ。  私だって最初は目を疑ったものですが、それでも間違いなく、手が。  今日の電車、混んでいるでしょう。  普段のこの時間ならいくつか空席が――ええ、空いているんです、本当は。  ですから先週のその日にはね、座っていたわけです、私は。  でも、空いているとは言え、仕事帰りの人が多い時間ですからね。  がらがらに空いているというわけでもなくて、詰めてまで座りたいわけでもない、という人もいる、といった具合でして。  ケータイをいじっていたんですよ。  いえ、私が、です。  最近じゃあ大勢そうしてますようにね、私も画面を見ていたわけです。  それで、ふと、何の気もなしに視線を上げてみたんです。  するとね、吊り革を掴んで立っている女性が視界に入りまして。そこで、あれっと思った。
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