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西日が差し込む放課後の教室で、私は一人寂しく机と向かい合っている。
春の温かな陽気が充満し、まったりと時間が流れるこの空間には、窓の外から聞こえる部活の音だけが柔らかに響いている。
吹奏楽部の金管楽器から飛び出す高らかな音。
野球部がバットでボールを捉える軽やかな金属音。
発声練習中の演劇部が紡ぐ滑らかな声。
いろんな音が混ざり合って、青春という一つの音楽を奏でている。
私はその中から、陸上部の伊勢崎剛くんが地面を蹴る音だけを拾おうとする。
足音なんて遠くから聞こえるはずない、そんなことは分かっている。
でも、伊勢崎くんの力強い足音なら聞こえる気がする。
――伊勢崎くん、今日も走ってるかな?
私は席を立ち、窓から身を乗り出してグラウンドを見下ろした。
「あ、いた」
すぐに伊勢崎くんを見つけた。
ちょうど走っているところだった。輝く茶髪を風で逆立たせながら、大きなストライドで他の男子を抜き去っていく。
肉食動物のような荒々しい姿に圧倒されて、私は思わずため息を漏らした。
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