深き山にて

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 木々が茂る登山道。  道端に花が咲いている。高山植物の一つだろうか、平地では見ない形に癒やされるものがあった。  そこを、一人の女性が登っていた。  およそ登山に似つかわしくない、風貌の女性だった。  肌は白く透き通り、まるで陶器のようであり、その瞳は深く澄み渡り、まるで宝石のように輝いていた。  髪は長く艶やかで、風に揺れ光を放っていた。  気品があり、どこか近寄り難い雰囲気があったのは、都市部に住むシティーガールだからだろうか。  それとも、彼女の生まれ持った気質なのだろうか。  細い手足と華奢な身体つきで、およそ汗水を垂らして山登りをするタイプには見えなかった。  最新のファッションに身を包み、綺羅びやかなアクセサリーを身につけて、颯爽(さっそう)と街を闊歩する方がよっぽどお似合いだろう。  彼女が登山慣れしていないのは着ているベースレイヤー、トレッキングパンツ、登山用ザックに到るまで全て新品とまで新しくはないが、年季の入っていない物ばかりだ。さすがに昨日今日始めたばかりの素人という訳ではなさそうだが、それでも経験者と言うほど熟練している訳でもなさそうだった。  名前を片木(かたぎ)美生(みお)と言った。  美生は時折休憩を挟みながら、ゆっくりと着実に一歩ずつ歩みを進めていった。  しかし、それは、決して楽をしているわけではなかった。  美生は息が上がりそうになる度にペースを落とし、呼吸を整えてからまた少しだけ速度を上げて歩き出すといった具合であった。  スマホのGPSと地図とを照らし合わせる。  ルートは山頂に向かっておらず、尾根に向かって進んでいた。  だが、それで良かった。  進むその先に山小屋が見えた時、美生の表情に安堵の色が浮かぶ。  自然と笑みがこぼれていた。  思い描いていた通りの光景が広がっていたからだ。  時刻はすでに夕方を迎えようとしており、西日に照らされた雲海は橙色に染まり始めていた。  だが、美生はこの景色が見たかった訳では無い。
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