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美生は足取りを早めた。
早く小屋に行きたくて仕方がなかったのだ。
この美しい光景を見てみたい気持ちもあったが、それよりももっと別のことがしたかったのだ。
足を進めていくと小屋は木々に埋もれて見えなくなったが、構わずにそのまま進んだ。
音が聞こえてくる。
薪割りの音。
すると突然視界が広がり、山小屋が現れた。
丸太造のログハウスのような外見をしており、煙突からは煙が立ち上っている。
小屋の前にはテーブルが置かれていて、その近くで斧を振るう一人の青年の姿があった。
やや筋肉質ではあるが、特別鍛えているという訳ではないらしい。
髪型はやや長めの前髪を七三分けにして後ろに流し、額には玉の様な汗を浮かべている。
肌の色は浅黒く焼けており、逞しく精力的な印象を受ける顔立ちをしていた。
服装は白いTシャツに、ジーンズを履いている。
美生は男性の姿を認めると、笑顔になって男性の名を叫んだ。
「祐之!」
男性・崎谷祐之は斧を振り下ろしていたが、声を感じて振り返ると目を見開いて驚いたような顔をしていた。
「美生……」
祐之は呆然と呟くように言う。
祐之の足元には割れた薪が散らばっていた。
美生は、そんなことお構いなしに駆け寄ると、祐之の胸に飛びついた。
そして、頬擦りするようにして甘え始める。
美生の顔は紅潮し、目は潤んでいた。
まるで愛しい恋人に会えたかのような反応だった。
いや、実際そうだったのだ。
美生にとって祐之は、誰よりも大切な存在なのである。
二年前の事。
仕事帰りの美生のスマホに祐之から連絡があった。週末も近かっただけに、デートのお誘いかと思いながら電話を取ると、その内容は予想外のものだった。
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