一生の罪

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一生の罪

 息子が自殺した。 いつもであれば息子は昼過ぎに起床し、私達のいる一階のリビングルームに姿を現すはずだが、その日は姿を見せることはなかった。  私は「仕方ないお寝坊さんだなぁ」と、思いながら息子を部屋まで起こしに行くことにした。 息子の部屋のドアノブを握ると、いつもとは違う感触を覚えた。非常に重いのである。 ドアノブが壊れたのだろうか? 私は強くドアノブを押し込んだ。 僅かに開けたドアの隙間からは異臭が漂ってきた。浄化槽の定期汲み取りの時に嗅ぐような糞尿の臭いだ。しかし、私の目は隙間から見える後頭部に釘付けになっていた。その後姿はぐたりとし、私が開けたドアの動きに合わせてゆらゆらと揺れている。  私は息子の名を叫んだ。しかし、返事はない。気が動転しながらも私のような女ひとりが通り抜ける程の隙間を開け、通り抜けた。 振り向いた私が見たものは、この世の地獄であった。 息子がドアノブの根本に輪っか状にしたタオルを通し、その反対側は首に巻かれていたのである。顔色は鬱血でまだら模様、目は見開き、鼻下は鼻水でキラキラと輝き、開いた口からはダランと出した舌と涎と共に垂れ下がっていた、吐き出された吐瀉物は纏うパジャマの腹の染みと化していた。 ドアノブを使って首吊り自殺を図ったことは明白だった。  この後のことはよく覚えていない。ただ、その場で呆然としていたことと、震える手でスマートフォンで119番通報をし、電話を受けつけた救急隊員の指示通りに応急手当を行ったことしか覚えていない。 私はその指示に従い、ひたすらに息子の心臓マッサージを行った。肋骨が折れる勢いで何度も何度も胸を押したのだが、その胸は氷のように冷たく息を吹き返す気配すらなかった。 やがて、救急隊員が到着した。救急隊員は息子の脈を取り、目にペンライトを当てて生存確認をしているようだったが、何度も目を閉じ、首を横に振っていた。 私はこの時点で「覚悟」をしていたのかもしれない。  息子は救急車で病院に運ばれる間も、病院でも懸命の蘇生処置が取られた。 だが、蘇生はなされなかった。私が通報をしてから1時間半が経過した頃、担当医が左腕につけた高級腕時計の文字盤に目を移し、その時間を述べた。 そう、息子の永眠時刻である。しかし、私が発見した時にはもう亡くなっていたと思う。
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