一生の罪

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 憔悴しきった私が帰宅して程なくに家に警察が来訪した。警察からは「部屋はそのままにしておいて下さい」と言われたために、息子の部屋には足を踏み入れてはいない。糞尿の掃除だけでもしておくべきかと考えたのだが、警察から「そのままにしておいて下さい」と怒気を込めた口調で言われてしまった。  息子の部屋に次々と警察官が入ってくる。群青色のツナギを着た警察官ばかりであることから鑑識だろう。息子の部屋では刑事ドラマのように現場検証が行われていた。息子が首を吊っていた場所は人型白線(チョークアウトライン)が敷かれ、番号が描かれた札が数個置かれていた。  私は夫と共に刑事の取り調べを受けている間、現実を受け止めることが出来なかった。 刑事が何を言っても私は上の空、首を吊る息子の姿を見ること無く病院の霊安室で息子の顔を見てきただけの夫のショックは比較的少ない方なのか、刑事の取り調べに比較的冷静に対応しているように思えた。 刑事は人を疑うことが仕事なのか、私達夫婦を疑っているようだった。特に私達夫婦の現場不在証明(アリバイ)に関しては二度三度どころか、五度六度の確認が行われた。 夫婦(わたしたち)とも、息子が首を吊ったとされる時間は二人でいたために不在証明(アリバイ)は成立していると扱われた。  すると、鑑識の一人が私達が取り調べを行うリビングルームに入ってきた。 「失礼します。机の引き出しからこのようなものを発見いたしました」 鑑識が一枚の封筒を差し出した。封筒には「遺書」と息子の文字で書かれていた。私はそれを見た瞬間に泣き崩れてしまった。夫は私の肩を抱いて慰めにかかるが、心境としては私と同じかそれ以上に辛いだろう。 刑事は私達に尋ねてきた。 「あの、読んでもよろしいでしょうか。申し上げにくいのですが…… 自殺の可能性が強くなりましたので……」 私達夫婦は了承するようにコクリと頷いた。とてもではないが、今の心境では息子の最後の言葉を読めるとは思えない。 「失礼」 刑事は息子の遺書を黙読し始めた。遺書は便箋一枚、私が涙ぐむ目で便箋の裏を見た感じでは便箋にびっしりと言葉が埋まっているように見えた。 暫くして、夫が台所よりコップの水を汲んできた。冷たい水なのに、生温くザラザラとしない砂の味しかしない。水とはこんなに不味いものだったのかと考えているうちに刑事は遺書を読み終えたのか、何度かうんうんと頷いた。 すると、刑事は重い口を開いた。 「あの、遺書の内容と照らし合わせた質問の方をしてもよろしいでしょうか。お辛いようでしたら後日にまた改めて……」 私は遺書の内容に見当がついていた。自殺の原因はおそらくではあるが…… ここで後日に回したところで現実は変わらない。私は今は亡き息子に向き合うことにした。 「はい……」 「遺書ですが、大まかな内容は『無職でいることの申し訳無さ』とあなた方ご両親に対する感謝が書かれておりました」 そう、息子は無職である。それも……
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