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あまりにもわけがわからず、しばらく固まっていると彼女はさらにしどろもどろになりながら言ってきた。
「困りますよね!? 変ですよね!? いきなり知らない女から今日一日恋人になってほしいなんて言われても! ごめんなさい!」
顔を真っ赤に染めながら、恥ずかしそうにうつむく目の前の女性。
ぶっちゃけちょっと可愛い。
「何か訳ありなんですか?」
そう尋ねると、彼女は「はい、そうなんです」と頷いた。
「実はですね、私来週お見合いがありまして…」
「はあ」
「親同士の決めた縁談話なんですけど…」
「はあ」
「どうやら写真だけで先方が私のことを気に入ったらしくて…」
「はあ」
「それで親も乗り気になってしまって…」
「はあ」
「このままだと私の意志関係なしで決まりそうなんです」
「はあ」
はあ、しか言えない。
そんな知らない家庭の事情を聞かされても他に答えようがない。
「それで私、ウソを言ったんです。もう私には結婚前提で付き合っている人がいるって。だからお見合いなんてできませんって。でも、家族は誰も信じてくれなくて……。まあ、ずっと家族の監視のもとで育ってきたので当たり前と言えば当たり前なんですけど」
「なるほど、そこで僕を恋人役にしてご両親を諦めさせようっていうわけですね」
「……ダメ、でしょうか?」
ダメなわけはない。
仮とはいえ、僕に初めて彼女ができるんだ。
……ダメなわけない。
ちょっと理由は悲しいが。
でも、僕でいいのだろうか。
結婚前提で付き合っている恋人が僕のような冴えない男だったら、ものすごく怪しまれそうな気がするんだけど。
「あの、聞いてもいいですか?」
「はい、なんでしょう」
「僕で大丈夫ですか? その……なんていうか、見た通り僕あまりパッとしてませんし、冴えないし、オシャレでもないし。逆に疑われそうなんですけど……」
「そんなことありません! あなただから声をかけたんです! まあ、他に誰もいなかったっていうのもありますけど……それを抜きにしてもあなたは素敵です。地味な感じがすごくいいです!」
これ褒められてるの?
まあ、僕でいいなら断る理由もない。
「わかりました、僕でよろしければ恋人役つとめさせていただきます」
「わああ、ありがとうございます! ありがとうございます!」
彼女は何度も何度も頭を下げてお礼を言った。
こんなにも喜んでくれるのなら、別に悪い気はしない。
「本当に嬉しいです」
目に涙を浮かべながら微笑む彼女の姿に、不覚にもドキッとしてしまった。
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