コンビニでバイト

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コンビニでバイト

 朝子姉さんの口利きで学校の近くのコンビニでアルバイトができるようになった。ほかの学生が部活や塾の勉強にいそしむ時間に私はコンビニで働く。朝子姉さんもそこで二年間働いた。勤務態度や顧客対応で評判が良かった彼女の後任だから決して手を抜けない。10分前にはバックヤードから出て商品の陳列状況を確認したりしている。 「お? 今日も早いねえ」  陳列棚にスイングポップを張っていた店長が振り返り、ひょいと片手を上げる。かわいい丸文字は店長自身が書く。バイトの初日にそれを知った時、店長のホームベースみたいに五角形の顔と丸文字を見比べて吹き出してしまったのを思い出した。 「ああー、また丸文字と俺の顔を見比べてるだろ?」  はっ、と我に返ると、確かに私は躰を捩りながら必死に口元を押さえていた。それでも指と指の間から、ウククク、と声が漏れてしまう。 「あ、いえ、そういう訳じゃなくて……」  私は口元から手を剥し、(かしこ)まってうなじを垂れる。出口を失った笑いの波動が指先に伝わって来て、手を左右握り合わせてもじもじする。上目遣いで見上げると店長はダラーンと緩んだ表情で私に見入っていた。 「いいんだ、いいんだ。僕の顔で美浜さんが微笑んでくれるなら」  店長は頭を掻きながら、本当に幸せそうに緩んでいた。今年32歳だという店長も私のことが大好きなんだ。人気のプリンやヨーグルトを隠していて、これもう期限切れだから持って行って、と退勤前によく私に持たせてくれる。  本社に知られたら大変なことを私のために平気でやってのける図太さがあるのも、五角形の骨相の特徴だ。 「いいえ、ちがうんです」私は顔の前でヒラヒラと手を振る。「店長の顔が角ばってるからって笑ってるんじゃなくて……」 「か、『角ばってる』? そ、そうか……、やっぱり、オレの顔は……」  しまった。失言だ‥‥‥。突然肩を落とした店長は、躰が縮んだように見えた。縮んだ分私も申し訳なくて肩をすぼめる。 「あ、店長、落ち込まないで……。わ、私、店長いつも一生懸命だから、とても尊敬して……」
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