「趣味の部屋」で見たこと

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「趣味の部屋」で見たこと

 窓のないうす暗い空間になっていた。  畳を二枚縦に敷きならべた細長い部屋。奥には天井まで届く細長い本棚があり、ぎっしりと本が詰まっている。大部分が文庫本だ。全部読んだのだとしたら、これほどの読書量というのは高校生としてはすごい。  ちょうど目の高さにあるところに手を伸ばし、一冊だけ引っ張り出す。阿部公房の「砂の女」。 「あれ?」  手にした瞬間、違和感を感じる。カバーと本のサイズが微妙に合ってない。おまけに本の天と小口にほぼ等間隔で黒いラインが走っている。ライトノベルなら挿絵が入っているからそういうこともある。だが、阿部公房じゃないか。新潮社文庫なのに栞紐もないし。そんなことがあり得るだろうか。  ページを開いた。思わずのけぞってしまった。阿部公房なんかではない。新潮社文庫なんかでもない。 「こ、これって‥‥‥」  まごうことなき官能小説だ。それも10代、20代の若い読者向けの超エロい挿絵入りのヤツ。私が開いたページは、ちょうど5分前の私のように、セーラー服の女がスカートまくられ、ショーツを脇にずらされ、秘めた部分にクンニを受けている場面が描かれていた。手が震えて本を落としそうになった。  もとの場所に戻し、その下の段からも一冊取り出してみる。谷崎潤一郎の「細雪」上巻。隣りに中巻、下巻と並んでいる。新潮文庫。ページをめくってみるとやはり同様だった。高校生で処女の私が見たことないような、想像さえしたことのないような、淫乱で煽情的な挿絵が視線を釘付けするのだった。  見たことがばれないように、元の場所に戻す。  そうか、このみちゃんは文学少女なのではなかったのだ。女の子としては、そして高校生としてもかなりどす黒いエロマニアだったのだ。これがすべて官能モノだとしたら、いったいいつから読み始めたのだろうか。一週間に一冊ずつとしても、一年や二年では読み終わりそうもない。とすると、中学生の時から?  ふうーっとため息をつき、暗澹とした思いでその場にたたずむ。おまんこがピチュッと音を弾き、粘液がたらーっと腿を伝う。  教室ではいつもおとなしく目立たない女の子。しかしそんな彼女のスカートの中身はどうだったか。いつも彼女のカバンの中に入っていた文庫本。そのカバーを外すとこうだ。──それだけじゃないだろう。宮田このみという少女は私には計り知れない奥が、もっと奥が、さらにその裏が‥‥‥。想像もできなかったどす黒い事実がまだまだ出てきそうな気がする。  寒くはないのに鳥肌が立った。  ん? 何か変だ。  ここ「趣味の部屋」にたたずんでいると、寒気のように躰に染み込んで来るもの。この空気感、何だろう。この違和感の正体は?
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