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うおーっと、男たちが一斉に吠えた。一人の美女の無事に安堵するというよりは、躰の深いところから湧き上がってくる欲望が、一点に向かってゴーっと流れ出す音だった。
鳥肌が立った女子は、きっと私だけではない。
「みんな、私のこと心配してくれたんだねぇー。ありがとうー」
緊張感が抜けた顔でヒラヒラと手を振っている。
今日の彼女はロングスカートが上品だ。ブラウンのニットに形のいい大きな乳房が浮き出ている。教壇に上る時それが揺れて、男子生徒の視線が集中する。
「だあれ、保健室のベッドが血だらけになってたとか、私が誘拐されたとか言いふらしている子ぉ?」
フミカが指の関節で教壇をコツコツコツと叩き、身体を捩り捩るようにしてピンク色の声をしぶかせると、「はい、僕です」「オレです」「あ、オレもです」「叱ってください!」「オレたちを罰してください!」とあちこちから野太い声が上がる。見るとみんな体育会系の男子だ。虫唾が走った。
斜め前の席から振り向いた美丘と目が合った。その目は「バッカじゃない?」と言っている。
「もう、困っちゃうのよ、そういうのってぇ! 誘拐もされてないし、レイプもされてないしぃー!」
しかし何だろう、このギャルトーンは。アンタも一応教育者という立場なんだからもっと大人らしくしゃべれよと突っ込みたくなる。真純も唇の端をゆがめ、これ見よがしにため息をついた。
「言っとくけどぉー、オレってさあ、レイプされる側じゃなくて、する側だからぁー!」
フミカは時々一人称が「オレ」になる。どういうタイミングでそうなるのか、誰も知らない。予測不可能なのだ。
長くて豊かな髪の毛をサラッと払うと、けばけばしい香水の香りがここまで漂って来た。
「おい‥‥‥、ポッチ、透けてね?」
「おお、透けてる透けてる」
「たまんねえなぁ‥‥‥」
「うう‥‥‥、フミカセンセー」
後ろからひそひそ声が伝わってくるから、よく目を凝らしてみると、確かに浮いている。乳首が。
「もう!」
一人のバカ女に高校の品格が穢された気がして、私はプクッと頬を膨らませ机の木目を見つめる。
それでもモゾモゾと動く男たちの背中が見えてしまう。ズボンの前をこっそり押さえてる男子の気配を感じてしまう。かっこいい男子もオタク系の男子も性欲がある。男子15名の性欲が、太くて長くて真っ黒な矢印になって一斉にフミカ目指して飛んで行くように見えた。
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