積弊清算

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 クラスメイトの視線が一斉に3人の下半身に注がれたことは言うまでもないだろう。  彼らの言葉のニュアンスからして、それは明らかに何かを意味していた。女子には想像し難い何か。いや、想像してはいけない何か。男の願望である何か。女の私は想像したくない。 「いいか、オマエら。担任の俺からもいっておく」  フミカの登場で思いっきりふやけていた担任の顔がキュッと音を立てて引き締まる。しかし、どんなに引き締めても、顔の隅々にネジのゆるみが残っているのがなんとも悲しい。シャーペンをグサリと差し込んで、ドライバー代わりにクルクル回してやったら、少しは締まるかしら……。  スカイツリーが教壇の向こう側に隠れ、私はほっと安堵のため息をつく。 「女子生徒の乳首が切り落とされただの、3年生男子がペニスを切断されただの、われらが県立湖南高校にそんな怪事件が起こるはずがないだろ。ああ、そうそう。宮田このみがずっと学校に来てないのもそれと無関係だ。ちょっと事情があってな。親御さんとも話し合って、しばらく休ませた方がいいということになってるんだ」  ちがう! 大原先生はウソをついている。まあ、ウソと言っても善意のウソだけど。よかった。担任のウソのお陰でこのみちゃんはいつでも堂々とクラスに戻って来れる。  阿久津先輩との無理な「アソビ」は、何カ月も続いていたらしい。それで大切な部分に深刻な裂傷を負ったのだった。彼がアソコを切られちゃったのはこのみちゃんの報復? いやいや、気の弱い彼女にそんなことができるはずがない。一瞬でもそんなことを考えてしまった自分が恥ずかしい。ごめんね、このみちゃん。 「しかし、一体誰だよ、そんなえげつない噂流す生徒は‥‥‥」  担任が大げさに呆れてみせた。妄念をはらうように頭を振るが、何ともわざとらしい。 「保健室のシーツが血みどろになってただと? みんな自分の目でそれを見たのか? そんなものウソだ! どこにも血みどろのシーツなど存在せん。いいか、よく聞け! バレー部は内部にいろいろな問題があったから、校長と顧問の先生が話し合って廃部になったんだ。それだけだ。傷害だの、麻薬だの、リンチだの、レイプだの、そんなものは噂にすぎん!」
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