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「いらっしゃいませ!」
同じ高校の制服を着た高校生にも分け隔てなく挨拶をする。みんな大切なお客様だから。
「あれ? 美浜さんじゃん。バイト?」
アイスクリームを二つ、バーコードリーダーでスキャンして顔を上げると、同級生の川田くんだった。けっこう勉強ができて、吹奏楽部でトランペットを吹いている。ひょうきんな面があって、モテるわけではないのに、いつも女の子に囲まれている。女の子は笑わせてくれる男の子が大好きだ。
「うん、今月からね」
「がんばってね。いつも応援してるから」
「ありがとう」
彼の後ろにもうちの高校の男子生徒が行列を作っている。一人として例外なく私たちのやり取りを興味深そうに、いや、不安そうに、それ以上に、敵意を持って、見つめている。彼らの視線の濃厚さにたじろいでしまうほど。
彼の斜め後ろに、そのがっしりした体躯に隠れるように恥ずかしそうに立っている女子がいるのに気づいた。
「あ、谷本さん……」
教室ですぐ後ろの席に座っている女子。川田くんとおなじ吹奏楽部。楽器は覚えてない。教室では地味で大人しくて目立たない彼女が、放課後はルージュをしている。すごく大人っぽく見える。いい香りが漂ってくるのは錯覚?
「ひょっとして、ふたり……」
私は人差し指で交互に彼と彼女を指す。
「え? うん、そう」
川田くんが、てへへへ、と頭を掻く。谷本さんも下を向いてもじもじしている。
「へえー、知らなかった」
「知らなくて当然だよ。だって、オレたち今日からだから」
彼から計算を済ませたばかりのアイスクリームを受け取った谷本さんは、じゃあね、と小さく手を振る。八重歯がかわいい。川田くんの手が彼女の腰に回された瞬間、プリーツスカートに丸いお尻の形が浮き上がり、ドキッとしてしまった。
羨ましかった。あの二人は私のまだ知らない世界にいる。私にとっての「異界」。どんな世界なんだろう。二人でどんなことを話すんだろう。どんなことをするんだろう。キスとか……? そのもっと先まで……?
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