積弊清算

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 担任が噂の否定に力を注げば注ぐほど、私たちの中に虚無感が広がっていった。だって、乳首が切断されたというのは、被害者本人の言葉だと言われているし、一週間前3年生男子が救急車で搬送されるとき、下半身が真っ赤に血に染まっていたという証言もある。不明瞭ながらもこっそり撮影された動画だって存在するのだから。私は見てないけど‥‥‥。  担任は続けた。 「そうそう、これはキミたちには絶好の勉強の機会だ。都市伝説と言うものが、どういうきっかけで、どういう経緯をたどり誕生するのかよく勉強しておくといい」  ちなみに大原先生の専攻は社会心理学だ。 「教科書では学べない、生の教材になるんじゃないかな。じゃ、冬休み中、風邪ひかないように、事故がないように、ちゃんと健康と生活を管理して過ごすんだぞ! 以上!」  とたんに、教室がビッグバンした。  今日から二週間、授業もなし部活もなし。その期待と喜びのエネルギーを、私たち高校生はもてあましている。どこに消費していいのかわからないでいる。  ロッカーに置いてあった文具と衣類、そして成績表と保護者へのプリントをカバンにしまっていると、いつも仲よくしている女子たちに囲まれた。 「ねえ、やっぱりダメなのかなぁ、クリスマスパーティー。みんなサキにも来てほしいって」 「そうだよ、おいでよ。ちょっと顔出してくれるだけでもいいから。みんなサキの事情知ってるし」  私の「事情」──それは養護施設に住んでいるということだ。クリスマスイブは愛光園でも行事がもたれる。地元のボランティア団体も参加して華やかなパーティーが開かれるのだ。それをみんな、特に幼稚園児や小学生たちは楽しみにしている。私も2年後にはもう自立だから、大きなイベントの時はできるだけ参加し、愛光園のみんなとの思い出を増やしたいのだった。
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