愛光園、サッカー大会

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 ゲンジ先輩と朝子さんが「悪魔チーム」。その他全員が「サンタクロースチーム」なのだそうだ。チーム名は愛光園で一番幼いゆきちゃんとたっくんがつけたという。 「サキお姉さんと一緒のチームだね」  スカートを引っ張られ見下ろすと、背中にかわいいウサギの縫いぐるみを括り付けたゆきちゃんがいた。目が合うと両手を差し出す。おんぶの催促だ。 「そうだね。一緒だね!」  ゆきちゃんを背中におぶると、「きゃははは」とかわいい歓声を上げ首に抱きついてくる。ぽってりとして潤った手。 「よーし、二人で頑張ろう!」 「うん、がんばろう!」  ピピピーっと、試合再開のホイッスルが鳴る。  中学生の男の子が蹴るボールはけっこう強い。あんなのがゆきちゃんやたっくんに当たったらたまったものじゃない。私の使命は幼い園児を守ること。とは言いながらも、彼らをほっぽらかしにしてボールを追いかけまわした場面もけっこうあった。  ボールを蹴り損ねてパンプスがヒューンと飛んでく。それが朝子姉さんの顔に命中して、爆笑がはじける。強いボールに足を取られ、ゆきちゃんをおぶったままスッテーンと前に転んだ。パンツ丸見えで、指差して笑われた。同じチームの子にぶつかって、弾き飛ばされ、足が絡んですっころび、またパンツ丸見え。そこに思いっきり泥だらけになったボールを当てられ、まっ白なパンツにボールの模様が版画される。何度指さして笑われたら気が済むんだろう。ゆきちゃんにまで笑われた。  サンタクロースチームは全員で攻撃し全員で守る。キーパーはその時の状況で誰がやってもいい。悪魔チームの方はと言うと、ゲンジ先輩はキーパーのみで、ボールは蹴ったらいけないという規則まである。だから、攻撃は朝子姉さん一人。それがゲンジ先輩が決めたルールだ。 「おねえちゃん、にげて、にげて!」  たっくんに警告され、私は逃げ回る。 「ちょっと、みんな、ゴールは向こうでしょ。どうして私ばかり狙うのよ⁈」  後ろから飛んできたボールが、私のお尻にパシーンと当たる。たっくんとゆきちゃんが手をつないでケラケラ笑っている。 「痛いったら! みんな、私のお尻はゴールじゃないの! キャッ! 痛い!」  朝子姉さんが腹を捩って笑っている。ゴールの前で手持無沙汰なゲンジ先輩も外国人のように腕を広げてヘラヘラ笑っている。  私は逃げる。逃げても逃げてもボールが飛んできて、狙いすましたように私の丸いお尻に当たるのだ。憎たらしい中坊ども。覚えてろよ~!  私が散々だったぶん、園の子どもたちは小学生も中学生も、男の子も女の子もキラキラ輝いている。よかった。みんなの笑顔が嬉しい。  中学生男子の力強いシュートをゲンジ先輩は完璧に遮断した。「そういう時はなあ、上体でこうやってフェイントをかける。で、こっちの方向へ蹴るんだ」「足の角度はこうだ」といちいち指導までしてくれる。「すっげーシュート蹴れるんだなあ!」「お! オマエ、あとで名前教えろ! 湖南高校サッカー部に来い!」と激励の言葉までついてくるから、みんな、特に男子は、大はしゃぎだ。
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