愛光園、サッカー大会

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 ゲンジ先輩がゆきちゃんを抱き上げひょいと肩に載せる。あどけない笑顔のゆきちゃんには、肩車が初めてだったのだろう。この時ばかりは顔を引きつらせていた。  ゴールを決めたちっちゃなヒーローもみんなに胴上げされた。だが、生まれて初めて空中に放り出されたたっくんは恐怖で泣き出してしまったのだった。やれやれ、力の加減がまだわからない少年少女なのだった。  子供たちが続々と玄関に入って行く。私はゴールに引っ掛けたコートを羽織り、鞄を手に取った。ふと中庭の隅に目をやる。朝子姉さんがゲンジ先輩のジャージについた汚れをはたいてあげている。胸もお腹も背中も脚も、そしてお尻も。とても仲睦まじそうだ。すると「オマエも泥、落とせよ」と言って、ゲンジ先輩もお姉さんの太腿やお尻に着いた泥をはたいてやっている。パンパンと乾いた音がここまで届く。  よかった、と思った。お姉さんとゲンジ先輩うまくいってるんだ。それも、かなり。さもなければボランティアで愛光園に来たいなんて言わないだろうし。このまま二人の仲がいい方向に進展してくれればいいと願った。ふたりとも3カ月後は教育の場から巣立つのだ。  私もセーラー服が、芝生と泥とボールの跡で悲惨な状態になった。さっき中学生の女の子たちにお尻を叩いてもらってボールの跡はだいぶ薄らいだ。でも紺色のスカートのその部分だけ薄汚れている。どうせいいか。明日から学校ないし、クリーニング出すんだし……。私はアツアツの二人を中庭に残し、こっそりと玄関に回る。 「ジュンくん……。ジュンくんたらぁ……。クリスマスだよ。ジュンくーん」  お尻の泥をはたいてもらいたい人の名前がくちびるからホロホロとこぼれ落ちた。
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