公開プロポーズ

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公開プロポーズ

 夕食はいつも5時から9時までの間に、各自都合のいい時間に食堂で摂る。炊飯ジャーからご飯、お鍋から吸い物をよそい、ラップのかかったおかずを電子レンジでチンする。デザートはたいていミカンかバナナか半分に切ったリンゴ。たまにプリンやヨーグルトになる。食事の時間はまちまちだから、居室のテーブルが混雑することはない。私がバイトが終わって園に帰宅するのが8時20分ごろ。シャワーを済ませてたいてい一人でテーブルに向かう。ゆきちゃんとたっくんはもう部屋に入って寝ている時間だ。  その時間は私にとって一番孤独な時間だ。ドラマなら主人公の向かいにお母さんやお父さんが座っているものだ。弟や妹がいる時もある。そんな場面は私の半生で一度たりともなかった。ときどき、料理担当の職員さんが「どう、おいしい?」なんて声をかけてくれることもあるけど、基本的には一人。さびしい食卓。  小中学生がだらしない格好で畳に寝そべりテレビを見ている時もある。いっしょの居室にいるけど彼らはテレビの中の世界に没頭して私には関心を示さない。「私、その人が犯人だと思う」とか、「○○って最近離婚したんだよね」とか、知っている限りのドラマ情報とか芸能界情報を動員して話しかけてみるが、梨の(つぶて)で終わることが大半。みんな自分の世界の中で生きている。やっぱり──さびしい。  今日はクリスマスイブ。特別な日だから集会室での夕食となる。フローリングに高い天井。朝なら高窓から日光がふんだんに注がれる。広いから、卓球テーブル5,6台はおけると思う。  いつもならみそ汁やカレーの匂いが漂ってきそうなところだが、なんてったって今日はクリスマスイブだ。細長い会議用の机を寄せ集め、きれいなテーブルクロスで覆い、長い長いバンケットテーブルを縦に二列こしらえた。30人余りの子どもたちが余裕で座れそうだ。
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