公開プロポーズ

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 前方に簡易舞台が設置されている。舞台と言っても床と同じ高さで、ただ紙テープで仕切ってあるだけだ。その真ん中には大きなクリスマスツリーがピカピカと輝いている。 舞台の隅に大きな楽器が立てかけられていた。チェロだ。え? 職員や子供たちの中にチェロを弾ける子がいたっけ? 思い当たらない。それとも町の音楽家がゲストで招かれているのだろうか。  舞台から見ると私たちは一番後方になる。  園長先生のお言葉あった後、田口さんが乾杯の音頭を取った。 「メリー・クリスマスぅー!」 「メリー・クリースマース!」  有名大学卒業のエリートより、少年少女の方が発音が垢ぬけている。   みんな一斉にチキンにかぶりついた。いつもぼーっとしているトシくんも、表情の乏しいダイキくんも、人と目を合わせようとしないマオちゃんも、どこにでもいる標準的な少年少女の顔で、というのはおいしいものを食べることが何よりも優先!という顔で、貪欲に、一生懸命、肉に顔をうずめていた。  サッカーの後、私とお姉さんはシャワーで汗を流してきた。熱めのシャワーを浴びた私たちは、顔はピンク色の火照り、体中ホカホカしている。ゲンジ先輩も職員用のシャワールームを使わせてもらったようだ。湿っぽい髪の毛が蛍光灯の光を受けてキラキラ輝いている。おたがい制服姿か体操服姿しか知らない私たちが私服で向き合っているだけで、胸がワクワクしてくる。  ふだん園内では長いズボンを穿いているお姉さんは今日は珍しくキュロットパンツに黒のストッキング。あれ? お姉さん、こんな衣装を持ってたっけ? 驚いた。あれ? もっとぽっちゃりしていたはずなのに、脚が細くなっている。いつのまにダイエットしたのかしら? もう一度驚く。  私もプリーツのミニスカート。いつかジュンくんとデートするかもしれないと思ってネット販売で購入したものだ。生足に自信があるからストッキングは穿かない。セクシー下着愛好会で提供された試作品をこっそり穿いてきた。スカートの下がスケスケのセクシーショーツだなんて、誰も気づいていない。スカートが短いから気を付けなくちゃ。  そっか。このみちゃんってこういうスリルを楽しんでいたのかも。 「今日は二人ともすっごくかわいいね」  ゲンジ先輩は「二人とも」と言いながら私の方だけを見て言った。 「へえー、スタイルいいんだね。制服の時は全然気づかなかったけど‥‥‥」  彼の視線がニットに浮かんだ二つのふくらみを這い回る。お姉さんのじゃなくて、私のだ。
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