コンビニでバイト

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 それにしても、男の子の心って何て変わりやすいのだろう。彼はゴールデンウィークの直前に私に告白してきたのだった。それからひと月も経ってないのに、もう別の女の子とつきあっている。女の子ならだれでもいいのかしら……。  あの時のことを思い返してみる。  屋上に呼び出されて行ってみると、彼はあらかじめ用意してあった椅子に私を座らせ、いきなりトランペットを吹き始めたのだった。エルガーの「愛の挨拶」。中学の時から吹いているという彼はなかなか上手に演奏したと思う。とても透明感があって、真っ青な青空にスーッと溶け込んでいくような音質だった。ほれぼれするような演奏だった。その後「告白タイム」となったとき、二人は何人もの野次馬に囲まれていた。こんなに多くの生徒の前でお断りするのは忍びなかったけど、やっぱり好きでない人の思いには応えることができない。 「ごめんなさい」と言ったら、「いいんだ、最初からわかってたような気もする」と返ってきた。晴れ晴れとした表情で。きっと愛情を出し惜しみできる性格ではなかったのだろう。告白して思いを出し切ったら、気持ちを切り替えて次の女子にアタックする。そう言う後腐れのない男子も魅力的だな、と私は今思い始めている。  川田くん、谷本さん、お幸せに。 「あ、あのう、これ……」と、男の人の声。 「はい?」と、私はぼーっとして見上げる。うちの男子生徒だ。見覚えはあるが名前は知らない。 「計算を……」 「あ、す、すみません!」  慌ててバーコードリーダーを持ち直す。  そう言えば、「ザル王子」──どうしているだろう。もう一度会いたい思いと、不感症呼ばわりされた屈辱とがごちゃごちゃになって、彼に対する本当の思いがわからないでいる私。もしあの時、川田くんの代わりに「ザル王子」だったら、告白を受け入れただろうか。もし私がフッたとしら、すぐほかの女の子に乗り換えるだろうか。  あれ? どうして私こんなこと考えているんだろう。何かにつけて「ザル王子」ならどうするんだろう、と考える癖がついてしまった。 「いかんいかん」  と、声に出して言い聞かせる。 「は? これ、いけない、の?」  別の男子学生がレジ前でポカンと口を開けて私を見ている。 「ああ、いえ、そうじゃなくて……。ありがとうございます。250円になります」  くすっと笑われてしまった。そのあと、緩んだ顔でじーっと見つめられてしまった。
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