公開プロポーズ

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 朝子姉さんは市内の優良会社への就職先が決まっている。適当に勉強していれば卒業できるし卒業後も一応安泰。心に余裕ができたぶん、心優しく頼りがいがあるゲンジ先輩と関係を深めていきたいと思っているんじゃないだろうか。  ゲンジ先輩も秋には早々と就職を決めていた。大学進学は諦めたらしい。時間の余裕が生まれた分お姉さんとの時間を増やしたらいいと思うのに、増えたのは私へのアプローチの回数だ。 「あっ……」  突然現実に引き戻された。  テーブルの下で私とゲンジ先輩の脚が触れ合ったのだ。細いテーブルを二列に並べただけの幅だから、向かいの人の脚に当たることもあり得る。実際前の方では向かい合う中学生どうし蹴り合っているのが見える。しかし、今のゲンジ先輩は明らかに故意だ。そしてなんらかのメッセージを含んでいる。ねっとりと粘り気のあるメッセージ。こっそり隣のお姉さんの様子をさぐる。大丈夫。気づかれてない。私は丸椅子を少し後ろにずらせ、できるだけ脚を引く。  チキンに満足した中学生たちが、集会室の前で出し物を演じている。女子がタンバリン片手に「赤鼻のトナカイ」を歌うと、鼻を真っ赤に塗った男子が三人で踊りだすのだった。部屋中が湧きたつ。職員さんがゲラゲラ笑っている。ゆきちゃんとたっくんもしゃしゃり出て踊りだす。朝子姉さんも手拍子を取ながら「おっかしい!」と甲高い声を上げて舞台に見入っている。お酒でも飲んだかのようにみんな陽気だ。 「ふっ!」  突然肩を掴まれびっくりした。振り返るとゲンジ先輩だった。いつ移動してきたのだろう。舞台に夢中で全然気づかなかった。丸椅子に座った私の背中にぴったりと躰を押しつけて先輩は立っている。左右の肩甲骨の間に出っ張った熱いものを感じた 「‥‥‥っ!」  処女の私だってこれが何であるのかは知っている。慌てて背を伸ばし5度くらい前屈させる。この大きなものを退けるためだ。  舞台に気を取られている朝子姉さんはこの事態にまだ気づいていないようだ。
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