公開プロポーズ

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 ゲーム大会が始まった。小学校低学年以下の子供たちが舞台上で商品獲得に向けて飛び上がったり、走ったり、転がったり、逆立ちしたりしている。舞台上の子どもたちも朝子姉さんも職員さんたちもそっちに気を取られて、ゲンジ先輩の行動には気づいてない。  肩を掴んでいた彼の手が、下着のラインをたどったり、二の腕をなでたり、脇の下に侵入して来たりする。肩を揉むふりをして指先を胸元にサワサワと這わせている。 「や、やめてください……」  後ろのゲンジ先輩だけに聞こえる声でささやく。 「だって、サキちゃん、オレの気持ちに全然気づいてくれないから……」  耳元でささやかれる。同時に耳たぶを噛まれる。 「ひぃっ!」 中庭サッカーの時は子供たちのお兄さんかお父さんみたいに頼りがいがあってカッコよかった先輩が、みんなの目を盗んでセクハラまがいのことをしている。いずれこんな状況に陥るような予感は前々からあった。でもそれがどうして今日なの。どうしてお姉さんのすぐ背後でなの? 私は激しく当惑する。 「や、やめてください……」 「サキ、俺さあ……」 「わ、わたし、ちょっとトイレに!」  彼の手を払い落とし席を立った。その瞬間、ミニスカートの裾から手が忍び込んできてお尻を触られた。 「きっ……」 とっさに口元を押さえその場を離れる。お姉さんが不思議そうな顔つきで私たちに振り返った。 「ゲンジ、こっちにおいでよ……」  朝子姉さんは私が座っていた椅子を自分の隣にずらしポンポンと手で叩いた。私はみんなに顔を見られないように出入り口を目指す。ちらっと振り返ると、口をポカンと開けていた先輩がしぶしぶ丸椅子に腰を下ろすところだった。お姉さんがへらへらと力なく笑っている。 「お姉さん……」  知らないふりして、お姉さんはすべてをお見通しだった。彼女の顔つきと若干猫背になった姿勢には、また一つのことを諦めた女の気配が漂っていた。その時私は悟ったのだった。ダイエットしたのではなく、痩せたのだ。いや、萎れたと言ってもよかった。ゲンジ先輩が愛光園を訪問した目的もきっと知っていたのだろう。
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