公開プロポーズ

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 目を上げた瞬間、私は神さまを感じた。神さまっているんだ。本当に私の願いを聞いてくださるんだ……。  長いソファーの一番むこうの隅に、なんとジュンくんが座っていたのだった。 「あら、サキさん、今日は素敵なスカート穿いて……。本当にお綺麗よ」  ミツエさんがソファーから立ち上がり、腕を広げて歩み寄ってくる。そして、暖かく抱いてくださったと思ったら、宝物にでも触れるように、私の頬を撫でてくださる。ジュンくんの突然の登場に加えて、ミツエさんの優しい言葉。信じられないくらい嬉しくて、危うく涙腺崩壊になりそうだった。  私は牧村博士に向き直り、ぺこりと頭を下げる。  「お世話になってます。お蔭様で腰の方、とても調子がいいです」  すると「おじいさん先生」は、うほほほほと笑ってから、「私の(はり)の威力を発揮するのはこれからですよ、サキさん」と静かな声で言った。いえいえ、もう十二分に発揮されています、と喉元まで言葉が出かかったが、場所柄控えた。だって、性感が高まったことなど口にできるわけない。特にジュンくんの前で。 それはそうと、「おじいさん先生」は博士だったんだ。ただの優しい鍼灸師じゃなかったのだ。専門家中の専門家。権威中の権威。博士の優しさに甘えて、いままであまりにも失礼な態度を取って来たのではないだろうか。 「それから、こちらが息子さん御夫婦でサンライズ鍼灸院をなさっている牧村(かおる)先生と奥様の夏帆(なつほ)さん」 「はじめまして、美浜咲です」  勢いよく頭を下げると薫先生も、うほほほほ、と笑ってから「長い付き合いになりそうです。よろしく」と低い声で言った。素敵なバリトンだ。声楽でもやっていらしたのだろうか。この方がジュンくんのお父さま……。ちょっと緊張する。顔はあまり似てないようだけど、落ち着いた佇まいの中に茶目っ気をのぞかせる雰囲気はジュンくんと共通だ。 「わたくし、エステティックサロンをやっておりまして、サキさんにもぜひ一度施術をさせていただきたいと思っていたところです」  この方がジュンくんのお母様……。高校生の私にも敬語を使ってくださる。物腰が柔らかくて上品だ。それに若い。綺麗。セクシー。ジュンくんと結婚したらこの方が姑さんになるんだ。
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