公開プロポーズ

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 後ろが気になってまた振り向く。愛理さんは私とジュンくんがこんなにも距離を縮めていることが全然気になっていないようだった。それどころか、もっとくっつきなさいよ、とでも言いたそうな顔をしている。やっぱり、二人がつき合っているという(うわさ)は周りの女子たちの早とちりだったんだ。  疑いは氷解! ──てことでいいんだよ、ね?  「母さんがね、キミを今夜うちに招待したいって言うんだよ。クリスマスだから。園長先生にも許可を取ってある。来てくれるよね?」  ジュンくんは頭を掻きながらおずおずと言った。その表情、私には理解できる気がする。5か月も私をほったらかしにしておいた良心の呵責だ。彼を見ているとなんか無性に意地悪をしたくなってきた。 「招待してくださったのはお母さまよね? じゃ、お伺いするわ。ジュンくんの招待ならちょっと考えないといけないけど……」  私は、フン、と鼻息を吐いてあらぬ方を見やった。後ろで愛理さんがクククと笑ってジュンくんの横腹を指でつついてきた。 「ほーら、ジュン、反省しないといけないよね」  愛理さんは「ジュン」と呼びつけにした。 「いくら牧村家の流儀だからって5か月も放っておいたのよ。それで最近の女子高生が心穏やかだと思うの? サキちゃんは貞淑だからよかったけど、違う女子だったらとっくにほかの男のモノになってるわよ」 「牧村家の流儀って……」  やっぱりジュンくんの意志ではない大きな力が私たちには働いているのだった。  愛理さんが続ける。 「まあ、それは後から説明することにして。今日はジュンくんのお宅、行きなさいよ。サキちゃんを招待したいのは、夏帆さんよりジュンなんだからさあ」  きっといいことあるわよー、と愛理さんは意味深なウインクまでした。ん? ジュンくんのお母さまのことを「夏帆さん」と呼んだ。この瞬間だけよそよそしく距離を置いたという雰囲気ではなかった。愛里さんってジュンくんの何なの?  桜坂でジュンくんに初めて会った時から感じている大きな流れに、私はやはり今でもぐいぐいと押され、目的地へと流されているのを感じているのだった。「結婚しよう」と言われたのも、5か月も会ってくれなかったのも、すべて計画的になされているように思う。「牧村家の流儀」とやらがそこにどう関係しているのかも関心がある。私の感では、園長先生も何らかの形で協力しているようだ。さらに、牧村博士にも、ミツエさんにも、愛理さんにも、ひょっとしたらジュンくんのご両親にも、それぞれ与えられた役割があるように感じられるのだ。要するに、みんなグルだ!   錯覚だろうか?  
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