公開プロポーズ

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 フルートとチェロの二重奏が始まった。  一曲目はモーツァルトのオペラに出てくる二重唱を編曲したものだそうだそうだ。軽快で人懐こいこのメロディーはどこかで聞いたことがある。主旋律はおもにフルートが担当する。伴奏を担当しているチェロもフルートの波に浮き上がるようにしてメロディーを担当する場面があった。  二人とも高校生だし、楽器はあくまでも趣味だ。音大への進学など考えていない。だから音程がときどき狂うのはしようがない。それでも二人の演奏は息がぴったり合い、聴衆に感銘をもたらすものだった。  そのあと、子どもたちにもなじみが深いクリスマスキャロルが二曲続いた。集会室の壁に寄りかかって聞いていた私は、ふと集会室の一番後ろ、朝子姉さんとゲンジ先輩のいる方へ目をやった。二人は肩を並べて座っていた。照明が落とされているからあまり良くは見えなかったのだけど、朝子姉さんはくちびるを嚙み、目を真っ赤にしていた。誰かが話しかけようものならとたんに泣き崩れそうな顔つきだった。ゲンジ先輩は体裁の悪そうな顔をして舞台を見つめている。とても私が近づけるような雰囲気ではなかった。 「朝子姉さん、ごめんなさい……」  クリスマスキャロルはこんなに幸せに満たされているのに、私はどうしてこんなに悲しいんだろう。悲しくて、情けなくて、申し訳なくて……。楽しいはずのクリスマスなのに心が晴れないのは、やはり私が「悪魔の子」だからか。「悪魔の子」には神さまの祝福が届かないのか。  演奏が終わった時、私の頬は濡れていた。ジュンくんがお辞儀をして舞台から降りて来る。緊張から解放されたのか、ほっとした顔でこちらに歩いてくる。私は彼の胸の中に飛び込んだ。彼の愛に救ってほしかった。彼に慰められたかった。  ジュンくんが片手で(もう片方の手はチェロのネックを握っていた。)背中を抱いてくれた時、みんなの注目の中、声を上げて泣いてしまった。それは、喉がヒクヒクして、いつまでも収まらなかった。 「サキ……、どうしたんだ?」  私は彼の胸にうずめた顔を「何でもない」と左右に振った。彼のワイシャツに涙がしみ込んだ。子どもたちが、不思議そうな顔つきで私たちに注目しているのが背中で感じられる。 「よし、わかった。なら……」  ジュンくんは私の手を取り舞台の中央に上がった。
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