公開プロポーズ

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 ジュンくんのことを考えると、満開の女体が反応した。乳首が、子宮が、膣が、クリトリスが疼いた。その切ない疼きは、ジュンくんへの思いを躰の奥底まで打ち込む役割をした。ただの「好き」が容易に「抱かれたい」という深い思いに変貌した。私にとっては驚異的な変貌だった。それほど、5か月の期間は意味深い期間だったのだ。  舞台の真ん前に座っているミツエさんと目が合った。「セックス」も「おまんこ」も女の幸せのキーワードだとおっしゃった彼女。そう、処女はセックスに対して罪悪感を持つ必要はないのだ。もっともっと、ジュンくんとのセックスを想像しよう。ミツエさんは正しい。──今は全身全霊でそう実感できる。  曲が終わると、聴衆から心のこもった拍手が送られた。  ジュンくんは立ち上がって、楽器を脇に寝かした。そして、みんなが注視しているにも関わらず、私の前にひざまずき、優しく手を取った。中学生たちの目が星のように輝きだす。胸の前に手を握り合わせて、ジュンくんのくちびるからどんな言葉が漏れでるかをワクワク期待している。 「サキさん、愛してる」  そのささやきは集会室の一番後ろまで届いたであろう。それほど透明で純度が高い声だった。手の甲にキスが落とされた。 「すっげー! ほんまもんの愛やでー!」 「私、感動ぉー!」 「いいなー、羨ましい!」 「お幸せにぃー!」  あちこちから歓声が上がった。田口さんが柄にもなく目を潤ませている。やがて集会室が大きな拍手に満たされた。 「あらまあ、園内でこんなことがあっていいのかしら……」  美里園長は当惑気味だったが、牧村一族が感動に濡れている様子を見て顔をほころばせた。 「交際してほしい。そして、18歳になったら、結婚してほしい」 「は、はい……」    嬉しいはずなのに、この瞬間を待っていたのに、バカな私は突っ立ったまま泣きじゃくってしまった。両手で目を覆うが涙が次から次へと流れ落ちてくる。顔が泥のようにぐちゃぐちゃになる。何泣いてるの、サキ。ジュンくんが困惑してるじゃない。嬉しいなら笑って。ほらほら、笑うのよ。ジュンくんの胸に飛び込みなさい。──もう一人の私が、泣き虫の私に促す。  顎がひょいと上げられ、くちびるが塞がれた。ジュンくんとの初キスだった。  愛理さんのフルートが「愛の挨拶」を奏でる。それに合わせて貞利博士とミツエさんが英語で歌う。薫さんと夏帆さんも続く。  あとで知ったことだが、「愛の挨拶」には本来歌詞はない。この時の歌詞は貞利博士がワーズワースの詩を一部改作したものだそうだ。それを家族のみんなで歌える背景にはただならぬ教養の深さがあるに違いない。
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