車中キス

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 シートに押し付けられ、大きな躰がかぶさって来る。のけぞるほど強い圧力でくちびるを押し付けてくる。 「夏帆さん、ほら、始まったよ!」  トーンを落とした愛理の声が聞こえる。やはり「夏帆さん」と呼んだ。 「どれどれ‥‥‥」  夏帆さんの、いや、ジュンくんのお母さまの声。  ちょうど赤信号になり、サイドブレーキを引いたところだった。お母さまが後部座席に振り向く気配がする。どうしよう。お母さまと愛理に観察されながらキスしている私たち。  「おばさん、ジュンもサキも学校じゃモテモテなんですよ。そんな二人が愛し合う姿って本当にステキですね」 「そうね‥‥‥」  お母様の声も感動に濡れている。  キスの経験がない私にはわからないけど、たぶんジュンくんのキスはとても下手なんだと思う。むやみにくちびるを押し付けてくるからちょっと痛い。歯と歯が何度か当たった。そして、吸引と押し込みの反覆。決してロマンチックなどと言える代物ではなかった。  彼の躰の中にはきっと熱い塊があるんだと思う。それを発散したくてがむしゃらに私に押し込んで来る。熱さはあってもテクニックがない。でも、そんな彼が私はますます好きになるのだった。きっと誰ともキスしたことがないんだ。そうだよね、ジュンくん? 私が初めてなんだよね? だからこんなに下手なんだ。キスが下手なジュンくんが大好き。私もキス下手だよ。だって……、したことないし。ジュンくんのためにとっておいたんだから。これからキスたくさんして上手になろうよ。毎日毎日キスしようよ。  ジュンくんはきっと童貞。私は処女。初めてどうし。ステキ! 彼の首に腕をまわしてしまったのは無意識でのことだった。  信号が青に変わる。お母さまのため息とともに車が走り出す。視界の隅で街の灯が後ろに滑っていく。
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