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お姉さんは私の悩み相談を受けながらも、プリントにすらすらと計算式を埋めてゆく。家庭教師の予習をしているのだろう。相手は中学三年生の女の子だと言っていた。高校生なのに家庭教師だなんてすごい。週3で2時間ずつ。時給を訊いたら私の倍もある。やはり持つべきものは頭脳だ。お姉さんの横で雑誌を広げ、「今月の運勢」の一文一文に一喜一憂している自分が恥ずかしくなる。
「湖南高校ってさあ、運動部はほとんど朝練があるの知ってる?」
お姉さんは落ちかかったメガネのフレームの上から私をのぞき込んでくる。
「知らない……」
「そうよね。いつもホームルーム直前に教室に入って、授業の終了と同時にコンビニにすっ飛んで行く子だんだもんね」
「入学して二か月過ぎたのに、私、高校のこと何も知らないかも……」
お姉さんは計算式を書き込んだプリントをファイルに挟み込むと、いい?と言って人差し指を立てた。あ、この仕草、ザル王子と同じ……。
「朝練が厳しいのは野球部、バレー部、バスケット部、それにサッカー部かな……」
目の玉を天井に向けたお姉さんは指を4本折り曲げてから、うんうんとうなずいて続けた。
「毎年最低でも県大会には進出するから。野球部は学期中も夏休み中もほとんど合宿だと思ったらいい。恋愛はご法度。というか、恋愛にうつつを抜かしている時間なんてない。もしザル王子が野球部なら諦めなさい! バレー、バスケ、サッカーは毎朝7時半から朝練。ホームルームに遅れても無罪放免。担任と部活の顧問とで話は通してあるから、決して遅刻扱いにはされない。放課後も6限終了の10分後から練習開始。そんな部活に入っていたら同じクラスでない限りめったに顔を合わす機会なんてない」
お姉さんは切り捨てるように言ったあと、じっと私を見つめた。私がちゃんと理解しているかどうか確かめるためなのだろう。
「うう……」
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