牧村伝説

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牧村伝説

「昔、とは言ってもどのくらい昔のことなのかわからないんだけど、湖のほとりに『牧村』と『本村(ほんむら)』という村があったんだ。『牧村』は農民と漁師と木こりたちが細々と暮らす貧しい村。対する『|本村』は商人の町で住民は豊かに暮らしていたんだ……」  ジュンくんは語りだした。牧村潤と言えばスポーツ、というのが定番だが、ナレーションもなかなかうまい。声もいいし発音もいい。将来はアナウンサーにでもなったらいいと思う。 「『本村』に住んでいた人はみな『本村さん』で、『牧村』の住人は皆『牧村さん』という時代だった。人口においても生活の豊かさにおいても優位にあったのが『本村』で、貧しい『牧村』の住人を見下していた」  ある時、「本村」で大火事が発生した。多くの人命と家と財産が焼失した。どこからともなく「本村」に怨みを抱く「牧村」の者が火を放ったという噂が広まった。それまでにもどこかで事件が起こると、「牧村」に濡れ衣が着せられることが度々あった。今回も確たる証拠もないのに「牧村」の数人の若者が奉行所にしょっ引かれた。そしてあろうことか、死罪が言い渡されたのだった。  村人たちは、なぜ自分たちだけが事あるごとに濡れ衣を着せられるのか考えた。貧しさのせいばかりではないように思われた。
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