牧村伝説

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 ある日、村の長老たちが牧ノ頭神社に集まり祭祀を捧げていると、天から拝殿に金の鱗に覆われた龍が下り、こう告げたのだった。 「牧村の娘たちの淫らな行いが氏神様を怒らせた。村中の15歳以上の生娘は一人残らず村から去らせなければならない。3年後に一人の娘が村に戻って来るであろう。もしその娘に穢れがなければ、「牧村」の本家に嫁がせるがよい。娘の腹から生まれる子供には龍神の運勢がともにあるだろう。だがもしその娘がすでに穢れているならば、村は嵐に襲われ、湖の底に沈むであろう」  折しも桜の満開の季節だった。村中の15歳以上の娘が神社の桜の木の下に集められた。娘たちにはそれぞれに将来を約束した青年がいた。長老は青年たちに村の老女たちがこしらえた編み笠を与えた。青年たちはそれを娘に被せた。  娘たちは泣く泣く村を後にした。  3年後、一人の娘が村に戻って来た。どこでどうやって暮らしていたのか、編み笠こそ風雨にさらされ、ほころび、穴があいていたが、娘はきれいな身なりをし、頬は血色がよく、村を出て行った時より肥えていた。一説によると傍らに下女まで侍らせていたと言う。    その娘が生娘であることは、牧村本家の長男により証明された。破瓜の血をしみこませたさらしは神社の桜の大木に掲げられたが、それは翌日、龍の金の鱗に覆われていたという。それを拝んだ村人たちには、夢に龍が現れた。龍の夢は例外なく幸運をもたらした。  娘は多くの子を産んだ。長じると、みな健康で知恵者で働き者で勇気があった。彼らの耕した畑で収穫された野菜は大きくてうまかった。彼らの捕らえた魚はどれも肥え太り、生きがよく、市場ではよく売れた。武士に取り立てられるツワモノもいた。3年の放浪から戻ってきた処女が「牧村」を繁栄させたのだった。  ジュンくんの物語を要約するとだいたいこんな感じになるのだった。
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