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「うちの主人もね、貞利方式に倣って私にプロポーズしてきたのよ。編み笠なんて時代遅れだと思ったんでしょうね。麦わら帽子だったけど、ふふふ……、今ではストローハットって言うみたいね。そう、指輪じゃなくて、帽子……」
お母様は、これ以上おかしい話があるだろうかという風にケラケラ笑った。
「その時点で1年間おつきあいしていたの。神社の桜の木の下に呼び出されて、帽子かぶせられて、プロポーズ。そのあと主人はすぐ留学したから1年間会えなかった。伝説も3年。貞利博士も3年。薫と私は短縮して1年。それでも長かったなあ。1年も会えずにいるのって。でも、今はこう思うの。会いたくても会えない思いが愛を育てたんだなって。私は貞操を守り薫と結婚した。そして長男の潤、次男の洸そして三男の満を生んだ。みんな健康でイケメンでスポーツマンしょ? 我慢した分、立派な子供に恵まれた」
実際にはまだお会いしてないけど、ジュンくんの兄弟はすべてイケメンとの噂はかねてから聞いている。
「じゃ、ジュンくんが桜坂で私にザルをかぶせたのも……」
瞼を閉じると、あの時の桜吹雪が蘇る。そうなのだ。あれこそがジュンくんと私の物語の始まりだったのだ。
「そうだよ。オレも父さんから聞いて『牧村伝説』は知っていた。『牧村』が龍神様に守られているんなら、オレもその恩恵を受けたいと思った。だからサキにザルを被せたんだ」
「でも、ジュンくん、ザルってちょっとひどくない? きれいな編み笠を被せてほしかったな」
そう言うと、ジュンくんは人差し指を立て、チチチと舌を鳴らした。
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